サッカーでは、過去にどんな状況や現象があったかを踏まえ、今どんな状態にあり、次の未来にどんなことが起こるかを予想してプレーする必要があります。
「過去」「今」「未来」を、時系列で考えることで、"やるべきプレー"に近づくことができます。
長友佑都選手のトレーナーのほか、マンガ「フットボールネーション」では一部監修を務め、プロからジュニアまで幅広く伝えることで多くの支持者を得る指導者、鬼木祐輔さんの新著「サッカーいい選手の考え方 個とチームを強くする30の方法」(池田書店)から、状況判断のためにどの順番に何を見ればいいのか、を一部抜粋してご紹介します。
(構成・文:中村僚)
■サッカーをプレーする時の自分の思考の順番は?
サッカーをプレーする時に、みなさんはどんなことを考えるでしょうか? またそれらの考えは、どんな順番で頭に浮かぶでしょうか?
例えば、味方選手からパスをもらう時。ボールホルダーに対して、パスを受けるためにポジションを取る、という選手は多くいます。
そのポジションが取れたら、次にまわりを見てパスコースやスペースを探し、パスやドリブルなどの選択肢を用意します。そして自分にパスが出され、自分の元にボールが到達したら、その選択肢の中から次のプレーを決断する、という順番ではないでしょうか?
もうひとつ、日常生活で考えてみましょう。
例えば夏休みの宿題。計画的に終わらせていましたか? それとも最終日に徹夜でやりましたか?
夏休みは期間が決まっています。限られた期間の中で計画を立てる場合は、最終日から逆算することが必要です。
7月20日から8月30日までに宿題を終わらせるとすると、約40日の間に1日3Pずつ進めれば順調に終わる、といった逆算です。
計画を立てずに場当たり的にこなすと、宿題の全体量が把握できずになんとなくやる気が出ず、宿題は積み残し。最終日に徹夜で仕上げる、という経験をした人も少なくないと思います。
■次のプレーへとつながれるポジションを逆算する
この「逆算」の考え方が、サッカーでも必要です。ボールをもらう前にポジションを取る時、ボールホルダーからパスを受けるためのポジションももちろん重要なのですが、それ以前に、次にパスを出す相手や、ドリブルで侵入するスペース、シュートを打つゴールなど、次のプレーとつながれるポジションはどこかと逆算する必要があるのです。
より具体的に見てみましょう。下記のイラストはビルドアップの場面です。味方がボールを持っている時に、中盤がボールを受けられる位置まで下がってサポートする場面①は多く見かけます。パスミスが起こる可能性も低く、問題があるようには見えません。しかしただ下がってくるだけでは、前線の選手とのつながりがなく、相手にとってもまったく怖くありません。
ここで本当に必要なのは、ボールホルダーに対するサポートよりも前に、次へのつながりを持てるポジション②を考えることです。これを「ボールなしペアリング」と呼んでいます(書籍P94)。反対に、ボールホルダーとのつながりは「ボールありペアリング」です。
ボールなしペアリングで次の選手とつながった上で下がってくるのと、ただなんとなく下がってくるのでは、同じポジションを取ってもその後の自分のプレーやチームの攻撃の展開がまったく変わります。そしてペアリングをする際は、つながった先の展開③、さらにその次の展開④から逆算できるのが理想です。
■今見た景色と少し先の未来をセットで考える
このように、サッカーでは逆算の考え方が必要です。しかし一方で、逆算するために周囲を見て確認した状況は、自分がボールをもらった時には確実に変化しています。ボールが入れば相手はプレスをかけてきますし、相手DFの陣形も動くからです。そうして変化する状況を、逆算を始める段階で考えられるかどうかが重要です。
ボールを持てば相手がプレスをかけてくるので、もらう前にプレスを想定しておく。言われなくても当たり前のことですよね。しかし実は、ボールを持っておらずプレスがかからない「今」の状況と、ボールを持ってプレスがかかる「未来」の状況を、セットで考えられない人が多いのです。
■さまざまな状況を考慮して少し先の未来を見る
例えばこのイラストのように、ボールをもらう前に状況を確認してからパスを出したのに、相手にカットされてしまう、という経験をした選手は多いと思います。これは、ボールをもらう前に確認した景色を頭の中で固定したままプレーしていることが原因のひとつです。ボールをもらってからパスを出すまでの間に状況が変わることをセットでイメージできず、流れを考えないままプレーしていると、こういったミスが起こります。
これに対処するためには、プレーの流れを捉え、自分が立っている位置、味方や相手選手の立っている位置など、さまざまな要素を考慮して、少し先の未来まで想定する必要があります。
■ボールをもらう前に見た景色はボールをもらった時には変わっている
自分の立ちどころからボール越しの景色を覗いたとしても、その景色は0・5秒で変わるため、変化を踏まえて自分の立ちどころを決められているか、ということを考えます。
よく起こるミスは、ボールをもらう前に見た景色のイメージのままプレーしてしまい、実際にプレーする時にはまったく別の景色になっているため、〝やるべきプレー〟につながらない、というシーンです。より具体的に示すと、ボールを受ける前に見た時にはパスコースが空いているように見えたが、ボールが自分の元に来た時には相手がそのコースに入ってしまっていた、などです。
上のイラストのようなイメージです。
■「今」の形から「未来」を見る
必要なのは、自分の立ちどころからピッチ上の景色を覗いた時、少し先の未来の状況も合わせて覗くことです。イラストでイメージすると左ページ下のようになります。
サッカーでは、0・5秒も経たないうちに目まぐるしく状況が変わり得ます。今自分が見た景色は、実際に自分がプレーする時にはまったく違うものになっている可能性が高いです。「今」覗いた景色の中で、味方や相手の配置、スペースの有無、ボールが動くスピード、どちらがリードしているかなど試合の状況......さまざまな要素を踏まえて、少し先の「未来」を覗く必要があります。これを「『今』の形から『未来』を見る」行為と呼んでいます。
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