考える力
「子どもの試合はワールドカップではない」各地のグラウンドに設置されたドイツサッカー界で有名な標語の意味
公開:2023年10月18日
サッカー大国として知られるドイツ。ワールドカップ優勝4回、ブンデスリーガも隆盛を誇っています。最近の対戦では日本代表が2勝していますが、歴史と実績のあるドイツサッカーから学び、参考にできることはたくさんあります。
2023年8月、サカイクキャンプ、シンキングサッカースクールでチーフコーチを務める菊池健太コーチが、ドイツのグラスルーツ年代を視察に行ってきました。そこで感じた「ドイツサッカー界の、子どもに対する取り組み」を紹介します。
(取材・文 鈴木智之)
<<視察レポート①:ドイツの育成現場に見る、日本もマネしたい「サッカーを通じて保護者も楽しめる環境」とは
■各地のグラウンドに設置された看板に書かれた標語
ドイツのケルンを中心に、U-6やU-7、U-13、U-14のトレーニング&試合を視察した菊池コーチ。各地のグラウンドで、こんな看板を目にしたそうです。
1:これは子どもたちの試合です。
2:試合は楽しむためのものです。
3:コーチたちは皆、ボランティアです。
4:審判も同じ人間です。
5:この試合はワールドカップではありません。
これはドイツサッカー界ではポピュラーな標語であり、グラウンドに掲げられていることが多いそうです。
■子どもたちに過剰なプレッシャーを与えない配慮
菊池コーチは「ドイツにこんな看板があることに驚きました。子どものサッカーに関わる人達は、このようなマインドで見守ろうという意味だと思うのですが、コーチや審判にリスペクトを持って接し、子どもたちに過剰なプレッシャーを与えないようにという配慮がされていますよね」と感嘆の声をあげます。
「一方で、ドイツのように、ワールドカップで何度も優勝する国であっても『これは子どものためのサッカーなんだよ』と発信しなければいけない状況があるわけです。そう考えると、日本サッカー界ももっと『これは子どものためのサッカーなんだ』ということを、発信する必要があるのではないかと感じました」
■子どもの試合はワールドカップではない
なかでも『この試合はワールドカップではありません』というフレーズは、ジョークを交えながらも、本質を突いた言葉です。
子どもたちのサッカーは、ワールドカップのように勝ち負けが最優先されるものではない。そこまで熱くなりすぎず、見守ってあげましょうという意味が込められています。
「この看板の効果かはわかりませんが、いくつかの公式戦を視察したところ、保護者の人たちが、子どもたちのプレーを大らかに見守っていました。外側からの働きかけで、保護者がヒートアップしないような状況を作っているのかなと思いました」
■苦痛な表情でサッカーをする子がいない
ジュニア、ジュニアユース年代の試合を視察する中で、「苦痛な表情でサッカーをする子がひとりもいなかった」そうで、それも日本との違いだと感じたようです。
「この看板にあるように『試合は楽しむためのもの』という考えがあるからなのか、1週間いろいろなカテゴリーを見させてもらう中で、子どもたちが心から楽しそうにサッカーをしている姿は共通していました。それを見る保護者も幸せそうで、みんながサッカーを愛しているんだなと伝わってきました」
■サッカーがお受験化していない 地元に根ざしたクラブがあるメリット
ドイツには8歳からスカウト網があるそうで、上手な子はブンデスリーガを始めとする、レベルの高い選手が集まるクラブでプレーをし、そうでない子は、地域にある幼稚園から大人までのカテゴリーを持つクラブでプレーするのが一般的なのだそう。
「その結果、ジュニアユースに上がるために、もっと頑張って欲しいとか、サッカーをお受験のようにとらえずにいられる環境ができていると感じました。それも、地域に根ざしたクラブがあるメリットですよね」
■日本の子どもは忙しく肉体的、精神的にも余裕がない
コーチに関しては、学校の先生をしながら、午後はコーチをしている人が多いそうで「ドイツの学校は午前中で終わるので、午後から指導ができる」(菊池コーチ)という環境があります。
「日本の子は朝から夕方まで学校があって、その後、サッカーをするというケースが多く、精神的にも肉体的にも余裕がありません。それも、大らかさからかけ離れてしまう要因のひとつのように感じます」
大人でもスケジュールが詰まっていたり、タスクが山積みになっていると神経がささくれだってしまいがち。保護者としても必死な思いをして、サッカースクールやクラブに子どもを連れて行っているのに、いまいちやる気がないように見えると、ああだこうだ言いたくなるもの。
そこにトレセンやジュニアユースのチーム選びなどが加わってきて、「サッカーは楽しむもの」という原点からかけ離れていってしまい、「楽しくてサッカーを始めたのに、辛くなってしまう子もいる」(菊池コーチ)という現状があります。
■制度を変えるのは時間がかかるが、個人の意識を変えることはできる
日本サッカーの制度や環境を変えるのは一朝一夕にはいきませんが、今回紹介した標語のように、サッカーに携わる人々のマインドに働きかけて、意識を変えていくことは、個人レベルでできることなのではないでしょうか。
サカイクには、ドイツの標語と近しい「サカイク10か条」があります。
あらためてこちらを頭に入れて、子どもたちのサッカーに関わるのも良いかもしれません。ぜひ繰り返し読んで、参考にしてみてください。
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