ヴィッセル神戸やINAC神戸レオネッサの本拠地として知られ、サッカーが盛んな街・神戸。この地で2024年にサッカースクール「スタンドアップフットボールアカデミー」を立ち上げたのが、代表の相本涼太さんです。
相本さんにクラブの理念や『サカイク認定パートナー制度』に賛同した理由などについて話をうかがいました。
(取材・文 木村芽久美)

■人間力が育つ環境をつくりたい。ストリートサッカーで感じた「学びの原点」
相本さんはヴィッセル神戸の下部組織でプレーした後、約15年にわたり指導者として経験を積み、スタンドアップフットボールアカデミーを立ち上げました。
大切にしているのは、サッカーを通じてスポーツの素晴らしさや将来社会で通用するための人間力を育むことだといいます。その原点には、若き日に感銘を受けたブラジルのストリートサッカーがあります。
「ブラジルの子どもたちは、ぼろぼろの靴をゴール代わりにして、新聞紙を丸めたボールで砂利の上でサッカーをしているんですよ」
決して整った環境ではない中でも、異なる年齢の子どもたちが本気でサッカーを楽しむ姿に触れ、逆境をむしろバネにする力「リバウンドメンタリティ」に深く感銘を受けたといいます。
指導者になりたての頃は、技術を高めることへ意識が向いていたそうですが、サッカーの根底にある「心の強さ」が育つ場をつくりたいという思いに変わったのだそうです。
■子どもの主体性を育む会話への工夫。「共育」に込められた想い
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クラブでは「共育」という言葉を大切にしているといいます。
これは指導者も保護者も、子どもたちと一緒に育っていくという意味を込め、教育の「教」ではなく「共に育つ」を意味するクラブ独自の造語です。
相本さんは昔から「教える側」と「教えられる側」という構図に違和感を抱いてきたといいます。
「教える立場であっても、言葉を選ばなくていいのか、威圧的であっていいのか......。子どもたちの成長と一緒に、指導者自身も成長していかなければならないと思っています。フランス代表の元監督ロジェ・ルメール氏の言葉に『学ぶことをやめたとき、教えることはやめなければならない』という言葉があるのですが、まさにその通りだと感じています」
トレーニングでは、子どもたちが自分で考えて答えを出すようあえて教えず、答えを導き出せるよう、個々のパーソナルタイプに合わせた言葉かけをし、会話のキャッチボールを大切にしているのだそうです。
「子どもたちの自主性・主体性の部分を伸ばし、自立した選手になってもらいたいという思いで熱量をもって指導をしています」
■試合は成長の機会。保護者が楽しめば、子どもも必ず楽しくなる
相本さんは「オン・ザ・ピッチは選手の自由」と考え、試合中はベンチから細かい指示を出さず、子どもたち自身の判断に任せています。
「お祭りってわけじゃないですけど(笑)、試合前やウォーミングアップはすごい盛り上げて、もうあとは『やってこい!』って送り出すだけです」
勝つことが第一目標ではなく、「成長のため」とし、試合後のトレーニングには振り返りの時間を設け、子どもたちが成功や失敗を自分で言語化する時間を設けているのだといいます。
また試合中にコーチングしそうになる保護者には「まずはお子さんの成長を一緒に楽しみましょう」と伝えるそうです。
「保護者が楽しめば、子どもも必ず楽しくなる」と強調し、試合後は「休まずに来ただけで100点。思いきり挑戦したことが次につながる」と声をかけるようにしているのだそうです。
また「試合後は、必ず褒めてあげてください」と、子どもの挑戦を肯定するよう促しています。こうした取り組みにより、保護者の意識も少しずつ変わり、子どもの成長を楽しむ保護者の姿が増えてきているそうです。
こういった包括的に関わる取り組みで子ども・保護者・指導者が「三位一体」で育つ「共育」の輪が広がっています。
■オフ・ザ・ピッチへの思い。サカイク10か条「サッカー以外のことを大切に」への共鳴
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「例えば、リフティングが上手いのに挨拶ができないとか、自分の荷物を親が持ってくる......。全国レベルのチームでも、荷物置き場が散らかっていたり、合宿での生活マナーが乱れていたりすることがあります。オン・ザ・ピッチでは熱心に取り組んでいても、オフ・ザ・ピッチには目を向けていない場面を多く見てきました」
相本さんは「サッカーだけしていればいいのか」と疑問を抱く中で、サカイク10か条に出会い、自分は間違っていなかったと勇気づけられたといいます。
特に第9条の「サッカー以外のことを大切にしよう」は、クラブの理念にも通じる考えです。保護者からも「学校で積極的に手を挙げるようになった」「家庭で自主的に手伝いをするようになった」といった、子どもたちの生活態度の変化を喜ぶ声も届いているそうです。
■子どもたちの未来のために、地域に根ざした育成を続けていきたい
サッカーを始める際、保護者からは「リフティングは何回できればいいですか」「どんなボールタッチを練習すればいいですか」といった技術的な質問を多く受けるそうです。相本さんは、まずは外で思いきり体を動かすことが大切だと話します。
「今の子どもたちは外遊びの機会が減り、基礎的な運動能力が不足しています。だからこそ幼児期から体を動かす楽しさを知り、自分の体を思いどおりに動かせるようになってほしいんです」
神戸市はサッカーが盛んな地域ですが、その一方で、育成に関わる指導者や保護者たちの意識はまだまだアップデートの途中だといいます。
「子どもたちの未来のためには、大人が変わることが大事です。これからもたくさんの方々にクラブの存在を知ってもらい、地域に根ざして子どもたちの成長を支えていきたい」と相本さんは意欲を語ります。
今後はサカイク認定チーム同士の交流を通じ、指導者が孤立せず、互いに学び合えるような環境づくりにも期待を寄せます。
子どもたち、保護者、指導者が一緒に成長していく――、その輪がこれからさらに広がっていきそうです。