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蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~
実力主義のチームで控えになってしまった息子。努力は報われないのか問題
公開:2021年11月24日
キーワード:GKエースカーストゴールキーパースタメンテクニックフィールドプレーヤーベンチレギュラー勝利至上主義指導者控え
小3からゴールキーパーのレギュラーだったのに、隣町からエース級の子たちが入団してきた影響でベンチに。ずっとキーパーとしてやってきたので、フィールドプレーヤーとしてのテクニックがなく、控え選手として出場することもない。
勝利至上主義で、上手い子が偉いというカーストができている。努力は報われると教えてあげたいが、何が正解かわからない。というお悩みをいただきました。
今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、悩めるお母さんに心を軽くするアドバイスを送ります。
(文:島沢優子)
<<贈り物をする親の子をえこひいき。暴力暴言もあるコーチを何とかしたい問題
<サッカーママからのご相談>
はじめまして。よろしくお願いいたします。
現在小6の息子は3年生から主にキーパーとして日々頑張っています。4年生の終わり頃、隣町からエース級の子が3人入ってきて、それまでいつもスタメンで出ていたフィールドの子が押し出し式で控えになる機会が多くなりました。
そして、その中でも運動神経のよいフィールドの子がキーパーに回され、いつもキーパーをやっていた息子はベンチに座っていることが多くなりました。
3年生からキーパー練習メインでやってきたので、フィールドのテクニックは正直言って他の子より劣ります。なのでフィールドの控えとして出場する機会もなく、キーパーの控えでずっとベンチを温めている状態です。
勝利至上主義のチームで、指導者から子どもたちに対しての心の指導がありません。親も口出し禁止のルールがあります。
勝つことがすべて。強いことがすべて。上手い子が偉い、上手くない子は偉くないというカースト制が生まれ、主導権のある上手い子が好きな子指名してチームを作り紅白戦をしています。
いつも最後に指名される子は決まっています。 月一回、県主催のキーパートレーニングがあり、息子もぜひ参加したいということで、車で2時間かけて参加し、専門的なトレーニングを受けてきました。
どんどん上達していく息子。すごく自信がついたようです。県内のキーパーの子との交流も深まりいい経験になったなとうれしく思いました。
そして、全国大会の県予選が始まりましたが、息子はやはりベンチです。「試合に出なくても、みんなのために自分ができることを探して頑張れ!」息子にそう伝えました。
ひたむきに休まず練習に行って、専門的な練習をして頑張っても、実力主義のチームではベンチです。頑張っている息子は子どもたちの中では雑魚扱いです。指導者もそんな空気スルーです。
このわだかまりをどうしたらいいのか、努力は報われると息子に教えてあげたいのですが、何が正解かもわからなくなってきました。
母親としてどうすればいいのでしょうか。教えていただきたいです。
<島沢さんのアドバイス>
ご相談いただき、ありがとうございます。
見守る側も辛いですね。母さんの悲しみ、頑張りやの息子さんを思う気持ちはお察します。お気持ちはわかるのですが、今お母さんが私に訴えられている内容すべてに共感できないなあというのが正直なところです。
■息子さんがレギュラーの時も「出られない子」がいたはず、まずは親の心構えを変えよう
頑張っても実力主義のチームではベンチ。
競争に敗れた息子さんは雑魚扱い。
指導者もそんな空気。
そういった負の現実に心を痛め、「このわだかまりをどうしたらいいのか」と書かれています。
ここに少しばかり疑問がわいてきます。お母さんは、チームがすべての子どもを平等に扱い、サッカーの楽しさを伝え、心身共に成長させる指導だと理解していたのでしょうか? もし、そうであれば、この扱いに動揺してしまうのはわかります。
しかしながら、3年生から主にキーパーとして4年生の終わり頃に隣町からエース級の子が入ってくるまではレギュラーだったわけですね。実力主義のチームなので、すでにその当時他に補欠の子どもや試合に出られない子がいたはずです。
できればお母さんの息子さんへのマインドセットを変えましょう。ここでいうマインドセットとは「サッカーをする息子に対しどう向き合っていくか」という心構えです。
そこで、ひとつアドバイスさせてください。
■自分の子を「弱い人」グループに入れたくない気持ちはわかるが......
「努力は報われる」と親が教える必要はないと私は考えます。お母さんは、もしかしたら、とても頑張り屋さんで、子どもの頃からやってきたことやトライしてきたことで成功を収めてこられたのではないでしょうか。
そんな成功者がもちやすいものに「生存者バイアス」という概念があります。例えば、交通事故の生存者の話を聞くと、私たちは「あの事故はそれほど危険ではなかった」と判断してしまいがちです。話を聞く相手が全て「生き残った人」だから、そう感じてしまうわけです。
そう考えると、お母さんがもし勝ち抜いてこられた方なら「努力すれば報われる」と感じてしまうのは当然です。例えば、スポーツ経験のある親ほど「あの厳しい実力主義の世界を乗り越えたからこそ今の私がある」と思い込みがちです。そうなると、サバイバルした人は途中で脱落した仲間を「弱い人間」と見なすので、自分の子どもを「弱い人」のグループに入れたくありません。
■一番大切なことは、前向きに取り組むプロセス
私などは、サバイバルできなかった人間です。バスケットボールをしていて、高校時代まで全国大会にレギュラーで出ていました。しかし、大学ではベンチには入れましたが、レギュラーにはなれませんでした。精一杯努力したとも思えませんが、だからといって120%頑張ったとしても活躍できなかっただろうと思います。
スポーツをすることで「頑張っても報われないことがある」という現実を知りました。これは勝ち負けが明確なスポーツで得られる、大きな学びのひとつでしょう。じゃあ、届かないと思えば頑張らなくていいのかといえば、それは違いますね。一番大切なことは、頑張って報われることではなく、結果が出なくても「前向きに取り組むプロセス」です。
■どんな状態ならサッカーに前向きになれるのか
ではどんな状態なら前向きになれるのか。それはサッカーが大好きなこと。仲間やチームやコーチが大好きなこと。そして、サッカーを楽しめる自分が大好きなこと。それらが前提としてあってこそ、初めて前向きに取り組めるのです。
したがって、お母さんに考えてほしいのは、息子さんがどうしたらサッカーを楽しく続けられるかということです。
私が上述したのは、あくまでも大学時代の話です。小学生時代は、実力主義などではなく、試合の出場機会を平等に与えてくれる、指導の本質を理解し、実践しているクラブに預けてほしいと思います。サカイクの読者さんであれば、さまざまな読み物や情報でそのあたりは伝えられているので、たくさん勉強できると思います。
■子どもに対しての間違った接し方、扱いとは
また、「何が正解かもわからなくなってきました」とあります。子育てに「これが正しいやり方だよ」といった正解はありません。子どもはそれぞれ違うからです。ただし、「間違い」は共通しています。これは、サッカーの指導も同じだと考えます。
子どもにしてはいけないこと。福祉や教育の世界で言う「ミス・トリートメント」(間違った接し方、扱い)は、以下のようなものです。
暴力。暴言。子どもを委縮させること。誰かと比較するなどして傷つけること。人権を軽んじたようなパワーハラスメントをすること。セクシャルハラスメントなどなど、たくさんあります。
次ページ:子どもがサッカーを楽しめているのか、きちんと「傾聴」しよう
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