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蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~
「厳しいけど、情熱があっていいコーチだ」は本当? 熱血コーチの情熱は子どもを伸ばすか否か問題
公開:2022年3月10日 更新:2022年3月11日
「あのコーチは厳しいけど、情熱があっていいコーチだ」。みなさんの周りにもそんな発言をする方いませんか? 随時声を出して指示するなど熱い姿勢を見せる方を「情熱がある」と、ありがたがる親御さんの声は少なくありませんが、はたしてそれは子どもたちを伸ばす指導なのでしょうか。
いつもは保護者からの相談にスポーツと教育のジャーナリスト・島沢優子さんがアドバイスを授けるこの連載ですが、今回は編集部からの質問に答えていただきました。
(構成・文:島沢優子)
(写真はフリー素材)
<<Bチームで苦しむ中学生の息子にどんな言葉をかければいいのか問題
<サカイク編集部からの質問>
みなさん「情熱のある指導者」の「情熱」意味をはき違えていませんか?
熱い指導は保護者にとってわかりやすく、いかにも子どものことを思っているように映ります。
しかし、あれこれ言い過ぎ、指示しすぎる指導は選手を恐縮させ、逆に子どもたちの考える機会・思考力を奪うことにつながるのではないでしょうか。(もちろん人格を否定するような発言は言語道断です)
子どもたちのことを本当に考え実践する指導者たちが持つ「情熱」とは、どんなものなのか。
今回は、過去から変わらず続く価値観が現代の子どもたちの指導に合っているのか、というテーマについてお送りします。
<島沢さんからの回答>
先日、池上正さんと、祖母井秀隆さんが、とあるリモートセミナーに登場されていました。
池上さんはサカイクで連載されたり、講習会をしています。池上さんが師匠と仰ぐ祖母井さんは元ジェフユナイテッド市原・千葉でGМなどを歴任し、2007年には当時フランスリーグ1部だったグルノーブル・フット38のGМも務めました。恐らく皆さんはご存知でしょう。
セミナーの中で、池上さんがジェフで中学生チームを指導したときの話が出ました。
■保護者がコーチの指示を求める
試合中、保護者から池上さんにこんな声が飛んだそうです。
「どうして何も言わないんですか? 相手のコーチはたくさん指示を出してますよ」
語気鋭く訴える父親に、池上さんは答えます。
「いや、私は選手が自分で考えてプレーするかどうかを見ています。実は日本一厳しいコーチかもしれませんよ」
■怒鳴ったり指示を与える言動は、子どもの自立と成長を育む
多くの日本人は、怒鳴ったり、叱ったり、煽ったりする態度からしか「厳しさ」をイメージできません。しかし、池上さんは「主体的に取り組まなければ、君は何も獲得できないよ」というメッセージを込めた態度を一貫して取ってきました。
私は、それが真の厳しさだと考えます。怒鳴ったり指示を与える言動は、実は甘やかしているのかもしれません。怒って刺激を与えているのですから、それは「世話を焼いている」ことになります。それは時に「過干渉」にもなります。
子どもに対し過度に干渉する言動は、自立と成長を阻む。このことは現在、教育界や幼児教育、保育の世界でも少しずつ認識されています。この大事なことを、すでに40年近く前から共有していたのが、前述した池上さんと祖母井さんなのです。セミナーで上記の話が出たとき、祖母井さんは「そうだね。池上、フェンス越しに呼びつけられたねえ」と笑みを浮かべながら振り返っていました。
■日本でも池上さんらが40年近く前から自主性を尊重するコーチングに取り組んでいた
さて、さきほど書いた40年近くの話です。ドイツの大学を卒業され、欧州の育成指導に詳しい祖母井さんが、オランダのサッカー協会が育成の指導者用に制作した一本のビデオテープを池上さんに見せてくれました。そこには向こうのクラブのトレーニングの様子が紹介されていました。
池上さんはコーチと選手の姿に大きな衝撃を受けたそうです。コーチが笛を吹いて選手を動かし、指示命令を繰り返すといった日本によくある練習風景はそこにはありませんでした。選手を煽るのではなく、じっと見守って良いプレーはほめる。何よりコーチと選手が頻繁に対話をしている。子どもが自分の意見をきちんと伝えている。そしてコーチもそれを歓迎している。そのことにとても驚いたそうです。
祖母井さんから、「ほら見て!(指導が)一方的じゃないよ」といわれ、「本当にそうですね」と答えたといいます。池上さんはYMCAで子どもにサッカーを教え始めたてまだ数年でしたが、その際祖母井さんに「おまえのところから育成を変えていけよ」と言われました。池上さんはそれ以前から子どもの自主性を尊重するコーチング法を自分なりに追求していましたが、「このやり方をもっと深めていこう」と再確認したと話されていました。
これが、お二人が「考える力と創造力をひきだす指導」を追求し始めた出発点になったのかもしれません。恐らく、コーチの誰もが子どもをしかり飛ばし、時には暴力もあった時代、しかもこんなに若い頃から、指導のパラダイムシフトに取り組まれていたのです。
■「厳しい指導」が暴走すると、生徒の自殺につながることも
私は、2012年に大阪の市立高校でバスケットボール部員が顧問による不適切な指導が原因で自死した事件のルポを本にするなどして以来、スポーツ指導の実態や改革について取材してきました。指導者の中には「私は熱血なので」「私は厳しいので、子どもは怖がっているかも知れませんが」と自虐的に話す人は少なくありません。子どもは怖がっているけれど、自分は子どものことを考え、愛情をもって指導しているといいます。
ところが、この怒鳴ったり、叱ったり、煽ったりする「厳しさ」は、本人が感情的になりすぎると、指導が暴走します。ご本人も制御できない場面が出てきます。指導現場での生徒の自殺事件はどれもその果てに起きています。
一方で、子どもや生徒が、暴言など不適切な指導をするコーチを慕う場面は少なくありません。なぜかといえば、暴力を受けたり怒られるのは「自分のせい」という自責の念が湧くからです。この心理は「コーチに認められたい。見捨てられたらおしまいだ」という「見捨てられる恐怖」によるものと思われます。
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