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蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~
息子を試合に出さない理由を、親がコーチに聞いてもよろしいか問題
公開:2022年8月17日 更新:2022年10月17日
指導者が「リフティングが100回できた者からレギュラー」と言ったから一生懸命練習してチームで一番できるようになった。試合でも、一人でドリブルして相手を交わしてゴールを決めた。
チームミーティングでも「別次元」と褒めたらしいのに、出場機会がどんどん減ってる。リフティングでレギュラーの話はどうなった? わが子が出場できない理由を聞いてもいいの? というご相談をいただきました。
今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、これまでの子育てと取材で得た知見をもとに、アドバイスを送ります。
(文:島沢優子)
(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
<<指導者が息子を劣等生扱いするのがツラいのでチームを辞めさせたい問題
<サッカーママからのご相談>
小学校5年生男子の母親です。地区のスポーツ少年団のチームに所属しています。
3年時に指導者が変わり、4年生から試合に出る時間が少なくなり、現在公式戦はもちろんのこと、練習試合での出場時間もほとんどなくなりました。
指導者は、常々「実力勝負」「勝ちにこだわる」ということを口にして、練習試合であっても下級生を連れてきてスタメンで使っています。少しでも試合に出れるよう、指導者に次の2点を尋ねて良いものか、逆恨みされないか、悩んでおります。
1点目は、指導者の過去の発言について。
指導者がリフティングに凝った時、「リフティングが100回できた者からレギュラーだ」と言ったことがあります。息子は一生懸命練習し、チームで唯一常時100回左右でできるようになりました。最高は250回です。チームには息子ほどできる子はいません。
「レギュラーの話はどうなったのか」と聞くのは嫌味に聞こえるでしょうか。
2点目は、選手起用の考え方についてです。
我が子のみを見ていて目が曇っているのかもしれませんが、どうも指導者に好かれていないように思えてなりません。
先日の試合で、息子は5年生で唯一公式戦に出してもらえませんでした。その後のフレンドリーマッチでも、公式戦で足を痛めた子が続けて出て、息子はその子と代わる形で後半から出場しました。
息子は、得意のドリブルで相手をかわして前まで持っていきゴールを決めました。素直に上手でした。
その後の全体ミーティングで、指導者は「凄かった。別次元の動きだった」と皆の前で褒めました。息子は「じゃあ、最初から出せ」と思ったそうです。
「別次元の動き」と褒める割には、お情け程度(フレンドリーマッチの半分)にしか試合に出さない理由を尋ねて良いものでしょうか。不毛なことでしょうか。
<島沢さんからの回答>
ご相談いただき、ありがとうございます。
試合に出られないわが子を見守るのは、親としても辛いものがありますね。私も親として同じ思いをしたので、お気持ち察します。
■自分の当番日に出場できなかったから辞めさせた親も
あるサッカークラブで、小学5年生からサッカーを始めたA君が入団して半年も満たずに辞めてしまいました。A君自身は続けたかったのですが、お母さんの一存で辞めさせたのです。
ご自分が当番だった日にA君が公式戦に出られなかった。それが理由でした。ひとつ下の4年生の上手な子が数人出場していました。
「みんな試合に出られると聞いていたのに、息子は出られなかった。言っていることとやっていることが違う。信用できません」
お母さんは、周囲にそう漏らしていました。コーチらは試合後、プレー時間がなかったことをA君に謝り、次の練習試合でたくさん出られるようにするからと話していました。本人も納得して帰って行ったのですが、お母さんは納得していませんでした。
コーチの方は「子どもとともに、母親にも話をするべきだった」と後悔していました。
「まだサッカーを始めたばかりだから、出られなくても仕方がないと思ってくれると期待してしまった。5年生は高学年だしプライドもある。お母さんにもあったでしょう。そこを僕らが汲めなかった」
これは10年ほど前。試合に全員出場させようといった機運はほぼなかった時代のお話です。
サカイクで連載をされている池上正さんを始めとして「全員に出場機会を」の機運は少しずつ広がりつつありますが、10年経っても状況は劇的には変わりません。
8,9割のチームが勝利するためにレギュラーメンバーをずっとプレーさせている。それが、さまざまな指導者や親たちに取材してきた私の実感です。
■わが子への「かわいそう」という感情は、くせ者。共感は良いが同化はダメ
とはいえ、A君のお母さんの行動は正しかったと思われますか?
A君のお母さんは、息子さんが試合に出られずベンチでポツンと座っている姿を見るのが辛かったのだと思います。辛いだろう、悲しいだろうと思うと、かわいそうになりますね。しかし、親のわが子への「かわいそう」という感情は、実はくせ者です。得てして良い子育てに繋がりません。
この連載で何度か申し上げているように、子どものつらさに共感するのは必要なことですが、子どもの気持ちと同化してはいけません。
同化するとは、子どものつらさを、親がわがことのように受け止めてしまうこと。お母さんが「そんな子どもを見守っている私って、かわいそう」となりがちです。
■コーチに質問したいのは、親御さんが自分の気持ちを鎮めたいからでは?
かわいそうなままでは不安です。
不安な親は、自分の不安を払拭したくて子どもに干渉したくなります。第三者がみれば過度な干渉でも、親御さん自身は「子どもに良かれと思って」世話を焼いてしまいます。
「リフティングができたら試合に出すと言ったじゃないか!」
「異次元の動きと褒めたのに、なぜレギュラーじゃないのか?」
そのようにコーチに質問したくなるのは、息子さんに良かれと思ってでしょうか?
もしかしたら、ご自分の気持ちを鎮めたいのではありませんか?
実はストレスがたまった「自分に良かれと思って」考えたことかもしれません。
子を想う親の気持ちは非常に複雑です。子どもに笑顔でいてほしい。努力が無駄にならずに済むようにしてあげたい。
すべて親心です。
■親が先回りしてしまうと、子どもは自分で思考することや課題解決の経験が積めない
ところが「良かれと思って」やったことはほとんどの場合、子どものためになりません。なぜならば、親が先回りすることで、子どもは何も考えず、何もやらなくて済みます。
要するに、自分の課題解決をする経験を積めません。
親心は時として暴走することがあります。そこに気をつけなくてはなりません。暴走しないためには、まず子育てをしている意味を考えましょう。
お母さんが息子さんを育てるなかで、最も大事なのは何ですか?
私は、まず子どもを死なせないことだと思います。私の子ども二人は兄妹ともサッカーをしていましたが、兄は割と鈍感なので心配しませんでしたが、生真面目で繊細な妹のほうはサッカーで気に病んでいそうなとき、命を絶ったりしないか彼女の表情を盗み見ていました。気になって寝室に見に行ったこともあります。
■もう5年生、監督やコーチには自分で質問させよう
次に大事なのは子どもの人としての成長を支えること。息子さんはもう5年生、高学年です。成長してほしいのならば、上述したように何事も自分で解決をする経験をさせてあげてください。
「リフティングが100回できた者からレギュラーだ」と言ったコーチに対し、「僕は努力したのに。レギュラーの話はどうなったのか」と尋ねるのは、息子さんがやるべきです。少なくとも、お母さんではない。
「聞いてみたら?」と話し、息子さんが「え~、聞けないよ」と拒むなら、まだその時期ではないということ。ほっとけばいいのです。
選手起用についても、「別次元の動きだった」と皆の前で褒めたのなら、「じゃあ、最初から出してください」と自分で言えばいい。親としては「悔しいなら言ってみたらいいじゃん」くらいの態度で十分ではないでしょうか。
なぜ試合に出られないのか。
そこを自分で考えて策を講じる経験をさせてあげてください。それをせずに、親のほうが「なぜ出られないんだ?」と詰問するのは、子どもが成長する機会を奪うことになりかねません。
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