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あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]

W杯、代表の躍進は喜ばしいが、日本がもっと強くなるために育成年代で必要な事は?

公開:2022年12月23日 更新:2022年12月27日

キーワード:スペインドイツワールドカップ冨安健洋日本代表

ドイツ代表、スペイン代表を破るなど日本中を熱くW杯日本代表。クロアチア代表とのPK戦で惜しくもベスト8には進めなかったものの、世界と戦える姿を見せてくれました。

しかし、今回も突破できなかったベスト8の壁。日本サッカーがさらに強くなるために、私たちは今回のW杯から何を学べばいいのか、育成年代でどんなことが必要なのかを池上正さんに伺いました。

池上さんの提言をもとに、みなさんのチームでも話し合ってみてください。
(取材・文 島沢優子)

池上正さんの指導を動画で見る>>

 

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カタールで行われたワールドカップでドイツ、スペインに勝利した日本代表(C)新井賢一

 

<<攻守の切り替えをどう教える? 身体の向き、その時何を見ればいいのか、子どもたちに理解させる方法を教えて

 

<サカイク編集部からの質問>

今年最後の連載は、編集部からの質問になります。

サッカーをしているすべてのお子さんがプロを目指しているわけではありませんが、日本のトップがどんなサッカーをしているのかを知ることは一つの学びになると思います。

先日幕を閉じたW杯では、日本代表は初戦でドイツに、グループリーグ最終戦でスペインに勝利するなど着実に力をつけているように見えました。一方で、他国の戦いを見て日本に足りないものを感じたサッカー関係者もいると思います。

池上さんがW杯を通じて感じた、日本が強豪国になるための課題、そのためには子どもの頃からどんなことを身に付けたらいいのか、という事をお聞かせいただけませんでしょうか。

 

 

<池上さんからのアドバイス>

今回は編集部からの質問です。ありがとうございます。

4年に一度こうやって世界のサッカーを一気に観られ、そこで私たちの国の代表が戦ってくれることは本当に幸せなことです。

ただ、毎回感じるのは、代表の強化には育成方法の進化発展が必要だということです。日本サッカー協会や識者も同じように育成に触れますが、明確な改革や対策が提示されていないようです。

 

■DF冨安健洋が語った「8強の壁」

奇しくも、8強の壁は何かと問われた冨安健洋選手が「日本人の育った環境だったり、サッカー以外のところもそうですけど、そこの本当の根のところなのかもしれない」と育成について言及しています(「日本人の育った環境、本当の根かも」 出典元:サッカーダイジェストWeb2022年12月6日配信)。

皆さんは、日本の子どもたちや、彼らを育てる大人たちに何が足らないと思われますか? その点をぜひみんなで議論できるといいなと思います。以下、議論の材料にしていただけそうな提言を四つさせてください。

 

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■「習ってないからできない」ではなく、幼少期から自ら考え、学ぶ習慣を

以前ある国立大学の教員養成を行う学生や大学院生らと野外料理に興じた日の出来事が思い出されます。

ある学生が、薪(まき)の上に新聞紙を置いて、そこに火をつけていました。しかし、火は上に上がるので薪は燃えません。あれ? こうかな? いや、こうすれば点くかな? と何か工夫すればよいのですが、ずっと同じことを繰り返していました。

その日の活動が終わってからの振り返りの会をしている時に、私が「今の大学生も危ないね」とみんなの前でそういうと、ある大学院生が「何が危ないのですか?」と聞き返してきたのです。そこで私が、「どうしたら薪に火がつけられるか色々試してみれば良いのに、それができないのが危ないということかな」と答えたのです。そうすると大学院生が「いや、僕はそう思いません」と言いました。

「彼は(薪の燃やし方を)習っていないから、できないんです」

彼らにとって何かを「学ぶ」ということは、大人や教師から「習う」ことなのです。

しかし、それではいけません。自ら考える。自ら学ぶ。子ども時代からそのような習慣をつけなくてはいけない。それがひとつめの提言です。

 

■子どもたちが自分のやりたいことを表現できる環境を作ること

したがって、まずはコミュニケーションのあり方から変えてください。これが二つめです。

子ども各々がやりたいことがあって、表現できるようなコミュニケーションをすべきです。戦術的な取り決め、きまりごとを一方的ではなく、選手同士で考えてつくり出していく経験をさせてください。その経験を積まなくては、選手だけの力でピッチ上で細かい調整や変化をもたらすことができません。この点は、コスタリカ戦を観ていて特に感じました。

そこを修正するためには、育成に携わる私たちが、子どもが監督やコーチに何でも言える環境整備に努めましょう。間違っていたら怒られるとか、恥ずかしいとか感じなくていい空気感や対等な関係をつくらなくてはいけません。

例えば私は、練習が終わった後に「今日の練習はどうでしたか?」と子どもたちに尋ねます。こちらが気になることを言った子には「それってどういうこと?」と聞き返します。そこで対話が生まれ「コーチに自分の考えを言っていいんだ」という信頼と安心が生まれます。

子どもに「物事を批判的に捉え判断する」クリティカルシンキング(批判的思考)を植え付けることも重要です。指導者が言ったことに「それってどういうこと?」と言える子を増やしてください。反抗している、生意気などととらえてはいけません。批判ではなく、確認をして納得しなくては前に進めないことに大人も気づく必要があります。

オランダでのコーチ留学の経験があるサッカー指導者によると、同国でライセンスを取得するための指導実践で、インストラクターが言ったことに対し「僕はこう思う」ときちんと主張しディスカッションができるコーチがいたとします。すると、そのコーチに対しインストラクターは「この人、OKです」と合格点を与えるそうです。

ところが、そのサッカー指導者がオランダから日本に帰って来て「ディスカッションしましょう」とコーチたちに話しかけても、誰も発言しないそうです。これは現場の選手の傾向と同じです。皆さん何も考えていないわけではありません。これは子どもも同じです。自分の発言が他の人に何と思われるかを非常に気にするのでしょう。

 

■斬新なトレーニングができる指導者が少年サッカーのカテゴリーに来なくてはいけない

三つめ。若い指導者がもっと海外に出る必要があると思います。オシムさんも同じことをおっしゃっていました。

海外で教育を受けてくる、もしくは教育を見てくることが重要だと説いていました。例えばスペインで指導を学んでいる人が帰国時に、九州産業大学の練習を見て「(他の日本人指導者と)全く違う練習ですごく興味深かった」と話していました。同大学を率いるのは、オーストリアのプロリーグで監督経験がありスロベニア代表に帯同した経験も持つ濵吉正則監督です。

そんなふうに斬新なトレーニングができる指導者が、少年サッカーのカテゴリーに来なくてはいけないと思っています。オシムさんやクラマーさんが、私の師匠である祖母井秀隆さん(仏グルノーブルGMなどを歴任)に「おまえは(日本の)子どものことをやれ」と言われたと聞きます。名伯楽たちは日本が重点的に取り組まなくてはいけないところを知っていたのです。

 

次ページ:進化するサッカーの理解を深めるため、学び、議論し続けなければならない

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取材・文 島沢優子 写真・新井賢一

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