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子どもの疲れやケガを防ぎパフォーマンスを高めるには?
パフォーマンスアップのために考えるべき「休養」の課題 片野秀樹×谷真一郎対談1
公開:2023年1月10日 更新:2023年1月19日
サッカーがうまくなるために必要な3つの要素。それが「運動・栄養・休養」です。近年は、運動(トレーニング)だけでなく、栄養や休養の重要性も広く知られるようになってきました。
3要素のうち、運動と栄養の知識については、たくさんの情報がありますが、「休養」に関しては「睡眠が大事」程度しか知らない人も多いのではないでしょうか?
そこで今回は「休養学」の第一人者であり、日本リカバリー協会の代表理事を務める医学博士の片野秀樹さんと、タニラダーでおなじみ「日本で唯一、日本代表キャップを持つフィジカルコーチ」の谷真一郎さんが「休養の重要性」について、対談を行いました。
サッカーをする子どもたちだけでなく、仕事や家事、育児で疲れを感じているお父さん、お母さんも必見の内容です。(取材・文 鈴木智之)
■達成感が目的となり疲労が軽視されている
谷:僕はフィジカルコーチとして、育成年代からJリーガーまで、多くの選手のコンディショニングに携わってきました。その中で、休養の重要性は言い続けてきましたので、片野先生と対談できることを楽しみにしてきました。
片野:こちらこそ、現場の最前線で活躍されている谷さんから勉強させていただければと思っていますので、よろしくお願いします。
谷:サッカーの現場では、休養の重要性が理解されていないと感じることが多々あります。一番の問題が「トレーニングのしすぎ、させすぎ」です。これは指導者だけでなく、選手の立場からも言えることなのですが、ハードな練習をすることで「やった感」を得ることが目的になっているんです。
片野:疲れを我慢して、一生懸命やることの美徳は、日本のスポーツ界に根強く残っていますよね。
谷:そうなんです。練習は「サッカーがうまくなるため」にするものなのに、練習の量をこなすことが目的になっているのは、本質からかけ離れていると感じます。
片野:おっしゃるとおりだと思います。選手の疲労に関して、谷さんはどこを見て判断されていますか?
谷:色々な観点があると思いますが、まずは選手に会ったときの表情や雰囲気です。元気がない、活力がない状態でプレーをしても、良いパフォーマンスは出せません。その状態が続く中でハードな練習を続けていると、体に痛みが出て、ケガにつながります。
片野:そのとおりだと思います。
谷:それに、状態が良くない中でトレーニングをすると、良くない動きが身についてしまい、やればやるほどパフォーマンスが下がってしまうんですね。これはとくに、育成年代の選手に伝えたいです。
片野:すごく現実的なお話だと思います。トレーニングの目的は、試合で高いパフォーマンスを発揮することなのに、いつしかハードな練習をすることが目的になってしまっているんですね。
谷:はい。指導者はよく「疲れている状態で、何ができるかだぞ!」と言うのですが、トレーニングとリカバリーがうまくいっていれば、そもそも試合で極端に疲れることはありません。心身ともに良い状態で練習をするからこそ、より良いトレーニング効果を得ることができます。その状態を作るために、良い練習と同じぐらい、良い休養が必要なのです。
片野:よくわかります。疲労が溜まってリカバリーが追いつかないと、ケガや病気につながるので注意が必要です。ケガや病気の場合、発熱や痛みという形で体からシグナルが発せられますが、疲労を感じるのも同じなんです。疲労を感じたままトレーニングをすると、最悪の場合、オーバートレーニング症候群や慢性疲労症候群に陥ってしまいます。
谷:それが原因でサッカーを辞めなくてはいけなくなったり、長期間トレーニングができないとなると、いままでなんのために頑張ってきたのだろうという気持ちになってしまいますよね。
■「疲労」に気付き、回復するために
片野:だからこそ、体が出すシグナルに従うことが大切です。疲労があるときは休んで、回復してから復帰すればいい。指導者の方や会社の上司も、選手や部下から疲労感が見てとれたら、休ませることも考えてあげてほしいです。「みんな疲れてるんだから、お前も頑張れ」ではなく、疲れているのなら休んで、フレッシュな状態で練習したり、仕事をした方が生産性は上がるわけで。
谷:サッカー選手の場合、指導者に「疲れている?」「足、痛そうだけど?」と聞かれると、「いや、大丈夫です」って言うんです(笑)。そこで「表情を見ていても、疲れているように見えるけど」と深掘りしていくと、ようやく「ちょっと疲れています」と本音が出てくるんです。
片野:やりとりが目に浮かびます。
谷:それもあって、ヴァンフォーレ甲府のトップチームでフィジカルコーチをしていたときは、選手の疲労度を毎日10段階で自己評価させていました。コーチングスタッフとも、コンディショニングと休養の重要性を共有していたので、疲労や筋肉のハリを感じている選手を休ませることに、抵抗はありませんでした。
片野:疲労に関する主観的な評価は、正しいものとされています。一方で、人間は脳が発達してしまったので、疲労感をごまかすことができてしまうのです。動物の場合、疲れたという感覚を受け取ると、止まって動かなくなります。なぜならば、疲労した状態で捕食動物に出会うと、食べられてしまうからです。
谷:なるほど。
片野:でも人間の場合、疲労していても、何者かに食べられてしまうことはありません(笑)。なにより脳が発達しているので、使命感や達成感で疲労を覆い隠してしまうことができるんです。本来、疲れているのに疲労を感じず「試合に勝つために」「ライバルに勝って試合に出るために」という使命感で、練習に励むことができてしまうわけです。これは非常に危険な状態です。
谷:あるとき、溜まった疲労が一気に出てきてしまうわけですね。それがオーバートレーニング症候群につながることもあります。
片野:そのとおりで、選手自身が疲れを感じていなくても、ハードな練習をすると、疲労は体に残ると理解してほしいです。そのために、栄養・休養をしっかりとることがポイントで、谷さんのようなコーチの方や保護者の方が、「ハードな練習をしたのだから、しっかり休んだ方がいい」と、アドバイスやサポートをしてあげることが大切なのだと思います。<第2回に続く>
医学博士、日本リカバリー協会代表理事。リカバリーウエアを展開する株式会社ベネクスの創業メンバーであり、主に商品の研究開発責任者として日本および欧米の大学と共同研究。その後、疲労を科学し、テクノロジーによって解決するためのさまざまな手法の実践に勢力的に取り組んでいる。現在は理化学研究所客員研究員として活動に取り組むかたわら、「休養」を学問として体系立てた初の著書「休養学基礎」を出版。また、研究活動の一環として、休養先進国ともいえるドイツと行き来する日々を送っている。
筑波大学在学中に日本代表へ招集される。同大学卒業後は柏レイソル(日立製作所本社サッカー部)へ入団し、1995年までプレー。 引退後は柏レイソルの下部組織で指導を行いながら、筑波大学大学院にてコーチ学を専攻する。その後、フィジカルコーチとして、柏レイソル、ベガルタ仙台、横浜FCに所属し、2010年から2019年までヴァンフォーレ甲府のフィジカルコーチを務め、現在はフィットネス・ダイレクターとして幅広い年代の指導にあたる。『日本で唯一の代表キャップを持つフィジカルコーチ』
【連載】片野秀樹×谷真一郎対談
●パフォーマンスアップのために考えるべき「休養」の課題 片野秀樹×谷真一郎対談1
●ストレスに負けない7つの休養とは 片野秀樹×谷真一郎対談2
●子どもの成長に必要な疲労とストレス 片野秀樹×谷真一郎対談3
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