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子どもの疲れやケガを防ぎパフォーマンスを高めるには?
子どもの成長に必要な疲労とストレス 片野秀樹×谷真一郎対談3
公開:2023年1月19日
サッカーがうまくなるために必要な3つの要素。それが「運動・栄養・休養」です。近年は、運動(トレーニング)だけでなく、栄養や休養の重要性も広く知られるようになってきました。
3要素のうち、運動と栄養の知識については、たくさんの情報がありますが、「休養」に関しては「睡眠が大事」程度しか知らない人も多いのではないでしょうか?
そこで今回は「休養学」の第一人者であり、日本リカバリー協会の代表理事を務める医学博士の片野秀樹さんと、タニラダーでおなじみ「日本で唯一、日本代表キャップを持つフィジカルコーチ」の谷真一郎さんが「休養の重要性」について、対談を行いました。
対談最終回は「子どもたちの成長に必要なこと」をテーマにお届けします。(取材・文 鈴木智之)
■戦略的リカバリーをするうえで大切なこと
谷:僕は20年以上指導者をしていますが、トレーニング効果を最大限得るためには、「心身ともにフレッシュな状態でトレーニングに臨むこと」だと、実体験から確信しています。そのためにはいかにして休養をとって、心身をより良い状態に持っていくかが大事だと思うので、片野先生のお話はすごく参考になります。
片野:こちらこそ、谷さんには現場の知見をたくさんお話しいただいたので、私の方も勉強になりました。
谷:僕が感じているのは、戦略的にリカバリーをすることの大切さです。育成年代の子たちは、学校にサッカーに習い事に忙しく、睡眠時間が少ないという話を聞きます。それならば、しっかり入浴して心身をリラックスさせて、寝る前にはスマホを見ないとか、睡眠の質を高めるための取り組みは、成長の上ですごく大切だと思います。
片野:育成年代であれば、保護者や指導者が、お子さんの様子を観察してあげてほしいですよね。疲労が蓄積すると、自律神経に影響が出ます。交感神経が優位になり、過緊張に陥ることで筋肉に張りが出たり、睡眠がとりにくくなります。人によっては便通が悪くなったり、下痢をしたりといった形で不調が現れます。
谷:その状態で激しいトレーニングをしても、逆効果ですよね。指導者の立場からすると、選手の顔色や表情を観察するのはもちろんのこと、「その練習量、試合量は適切か?」と自問自答しなければいけないと思います。
片野:おっしゃるとおりです。
谷:子どもたちのサッカーを見ていると、1日に3試合、4試合することもありますが、それだと「この試合がだめでも次がんばればいいや」「次の試合までにエネルギーをとっておこう」となりがちです。トレーニング効果を高めるためには、高強度でプレーすることが大切なのに、それをさせない環境を大人が作っていると感じることがあります。
片野:疲労とパフォーマンスの関係を表す「フィットネス疲労理論」があるのですが、これは「自分の体力から疲労を引いたのが、現在出せるパフォーマンス」という考え方です。体力が10あって、疲労が0であれば、10の力が出せます。でも疲労が3あると、7の力しか出せません。単純な話で、100%のパフォーマンスを出すためには、体力とパフォーマンスがイコールになればいい。つまり疲労がゼロであればいいわけです。
谷:積極的に休養をとって、疲労を0に近づけることが、最高のパフォーマンスを出す方法のひとつですよね。僕はヴァンフォーレ甲府のトップチームを担当していたときに、いかにして疲労をなくし、コンディションを上げながらパフォーマンスを上げるかに注力していました。特に2012年のシーズンでは、一般的にチーム全体の10%がケガ人の目安と言われているところを、わずか3%以下に抑え24戦無敗というJリーグ記録でJ2優勝を果たしました。
片野:谷さんのように「試合で100%の力を出すために、どうすればいいか」を考えると、自然と疲労をどうコントロールするかに向き合っていくはずなんですよね。もちろん成長期のお子様の場合、超回復をうながすために、高負荷のトレーニングも必要ですが、そればかりだと疲労が蓄積していってしまうので、注意が必要です。
谷:練習や試合で100%を出し切るためには、疲労がない状態で臨むことが大切なのだと理解すれば、そのためにはどうすればいいのだろう? という発想になると思います。日本の選手は真面目なので、その考えがスタンダードになれば、休むことに積極的になるはずなんです。
片野:疲労やストレスは、成長のために必要なことです。負荷をかけないと、人間は成長しませんから。超回復の理論で、肉体的・精神的に強いストレスがかかったとして、それを乗り越えた後には耐性がつきます。筋トレはまさにそうです。そう考えると、ストレスは一概に悪いものではありません。ただし、過度のストレスがかかったり、ストレスが慢性化している状態は危険です。それまでは耐えることができていたけど、何かがきっかけに耐えられなくなることもありますから。
谷:片野先生との対談を通じて、このような考えを多くの人に知ってほしいと感じました。僕もコンディショニングのセミナーなどで、疲労に対して「戦略的にリカバリーをしましょう」という話をしてきましたが、これからも投げかけて行きたいと強く思います。
片野:私の方も、たくさんのお話を聞かせていただき、大変参考になりました。
谷:日本人は大人だけでなく、子どももストレスを抱えています。大人からのプレッシャーや声掛けで、過度なストレスを感じている子もたくさんいると思います。本来は楽しいはずのサッカーを、楽しいと感じてもらうためにも、大人が子どもたちを観察すること、正しく導くことが重要なんだと改めて感じました。
片野:積極的に休養をとって、心も体も充電することを意識していただけたらなと思います。そして自分自身と向き合って、いまの状態を知ることが、子どもたちの成長にもつながると思います。
谷:はい、僕もそう思います。今回はありがとうございました。
片野:こちらこそ、ありがとうございました。
医学博士、日本リカバリー協会代表理事。リカバリーウエアを展開する株式会社ベネクスの創業メンバーであり、主に商品の研究開発責任者として日本および欧米の大学と共同研究。その後、疲労を科学し、テクノロジーによって解決するためのさまざまな手法の実践に勢力的に取り組んでいる。現在は理化学研究所客員研究員として活動に取り組むかたわら、「休養」を学問として体系立てた初の著書「休養学基礎」を出版。また、研究活動の一環として、休養先進国ともいえるドイツと行き来する日々を送っている。
筑波大学在学中に日本代表へ招集される。同大学卒業後は柏レイソル(日立製作所本社サッカー部)へ入団し、1995年までプレー。 引退後は柏レイソルの下部組織で指導を行いながら、筑波大学大学院にてコーチ学を専攻する。その後、フィジカルコーチとして、柏レイソル、ベガルタ仙台、横浜FCに所属し、2010年から2019年までヴァンフォーレ甲府のフィジカルコーチを務め、現在はフィットネス・ダイレクターとして幅広い年代の指導にあたる。『日本で唯一の代表キャップを持つフィジカルコーチ』
【連載】片野秀樹×谷真一郎対談
●パフォーマンスアップのために考えるべき「休養」の課題 片野秀樹×谷真一郎対談1
●ストレスに負けない7つの休養とは 片野秀樹×谷真一郎対談2
●子どもの成長に必要な疲労とストレス 片野秀樹×谷真一郎対談3
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