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イタリアのサッカー少年が蹴球3日でグングン伸びるワケ

第5回 イタリアの指導者が"ダメ出しコーチング"をしないのはなぜ?

公開:2018年12月26日 更新:2018年12月28日

キーワード:イタリアカルチョの休日コーチングスポーツ指導ダメ出し子どもたち小学生

朝練なし、居残り練習なし、ダメ出しコーチングなし、高額な活動費なし。ワールドカップで4回の優勝経験があるイタリアの小学生は蹴球3日でグングン伸びる。カルチョの国の少年たちと日本の育成現場は何が違うのでしょうか。

ロベルト・バッジョにほれ込みイタリアに渡って20年、現在は14歳の息子のサッカーライフを通じ、イタリアのサッカー文化を日本に発信する筆者が送る、遊びごころ満載の育成哲学とイタリア流ストレスフリーな子育てを描いたサッカー読本「カルチョの休日 -イタリアのサッカー少年は蹴球3日でグングン伸びる-」から、内容を少しだけご紹介します。

前回はイタリアの保護者についてご紹介しました。試合では大騒ぎして盛り上がるけど、ダメ出しはしない。上手い下手に関係なく子どもがグラウンドで躍動するわが子に心満たされるイタリアの父親のあり方は、子どもの自己肯定感を育みます。

連載最終回となる今回は、イタリアのコーチがどうしてダメ出しコーチングをしないのかをご紹介します。そこには「勝敗よりも大事なもの」が有るから。サッカーを楽しみながら自然と人生を学んでいく、「蹴球3日でイタリアのサッカー少年がグングン伸びる」そのワケをご覧ください。

(テキスト構成・文:宮崎隆司)

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■とにかく子どもを盛り上げるイタリアのコーチング

イタリアで育成年代の選手を指導するには、小さな街クラブでもUEFA‐B(UEFA=ヨーロッパサッカー連盟)のライセンスが必要です。私の息子が所属するフローリア2003チームを率いるジョバンニ監督も、このライセンスを持っています。

とにかく子どもたちを盛り上げるのがイタリアのコーチングです。

日本のグラウンドでしばしば耳にする、「なんで勝負しない!?」とか「今のはパスだろ!?」といった"ダメ出しコーチング"は、この国ではほとんど聞かれません。

イタリアのグラウンドでは「ベッロ(bello)」という言葉が飛び交います。意味は「美しい」。子どもがいいパスを出したときも、ただ「いいパスだ」とは言いません。「なんて美しいパスだ!」と、日本人には大げさに聞こえるくらい大絶賛します。

これがイタリア人のコーチングです。

■息子が出会った魅力的な指導者たち

これまでうちの息子がサッカーを教わってきた指導者は、誰もが人間的な魅力にあふれる人たちでした。

息子が出会った指導者の一人に、フィレンツェの街クラブ《オリンピア》のアンジェロ・カステッラーニという人物がいます。

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フィレンツェの街クラブ、オリンピアでサッカースクール最高責任者を務めるアンジェロ・カステッーニさん。

西地中海に浮かぶ大きな島・サルデーニャ島に生まれ育ったアンジェロは、路地でサッカーしているところをスカウトに見出され、12歳でジェノアに入団します。右ウイングとして将来を嘱望されたアンジェロは、しかしケガにより25歳で引退。フィレンツェの新聞社の印刷部門で夜間に働きながら、昼間は下部リーグでプレーを続け、やがて街クラブでサッカーを教えるようになりました。

指導者としてのキャリアは36年、教えた子どもは1万人を超えます。その手腕が評判になり、国内有数のクラブからもオファーが届きました。しかし彼は、街クラブでの指導に生涯を捧げようと決意。2000年からオリンピアのサッカースクール最高責任者を務めています。

■勝敗よりも大切なもの

私の息子は一時期、オリンピアに通い、アンジェロの指導を受けていました。アンジェロについては、忘れられない出来事があります。

アンジェロが教えていたチームの一つに、軽くはない障がいを持つ子どもが二人いました。勝利を優先するならば、二人を極力出さないのが賢明でしょう。ところが彼は、他のチームメイトと一切分け隔てすることなく二人に出場機会を与え続けました。対戦相手の監督から「一人多く出しても構わないよ」と提案されても、絶対に聞き入れませんでした。

監督のこの決断が、二人の子どもをどれだけ勇気づけたことか。

この判断についてアンジェロに尋ねたところ、彼はこんなふうに答えました。

存分にサッカーをしたいという子どもの気持ちを拒む理由はどこにもありません。私たちのような小さな街クラブがそれを拒んだら、彼らはどこでサッカーをすればいいのでしょう。もちろんチームメイトにとって、彼らとプレーすることは簡単ではありません。だからこそ子どもたちは自分に何ができるかを一生懸命考えてくれました。二人もチームに貢献するために努力を重ねてくれました。私はそんな彼らを後ろから支えたにすぎません」

こうしてイタリアの子どもたちは、サッカーを楽しみながら自然と人生を学んでいきます。

■"教える"ではなく一緒に"遊ぶ"

アンジェロがサッカーで最も大切だと考えること。それは思い切り"遊ぶ"ということです。彼は週に2度の練習を、練習ではなく"遊び"だと考えています。

『グラウンドに行くのが楽しみで仕方ない』『仲間たちとボールを蹴る時間が永遠に終わってほしくない!』。子どもたちがそんなふうに思えなければ、その練習は何百時間やっても意味がありません。パイロンをならべてのジグザグドリブル、ゴール前の監督にパスを当て、リターンを受けてフリーで打つシュート......。こういうものを繰り返しても、試合で役に立つ技術を身につけることはできないのです」

では、何をやれば上手くなるのでしょうか。

「ゲームです。ゲームには敵のプレッシャーがつきものです。プレッシャーの中でボールを扱うからこそ、トラップやフェイント、ドリブル、パスの技術を身につけられる。走りの中でスピードに変化をつけることも、ジャンプや方向転換もそう。ボールタッチだけでなく、身体の使い方も学べます。もちろん、守備に穴を開けないためのポジショニングや点を取るためのポジショニングも。すべてはゲームで身につけられる。ゲームこそが最高の練習なのです」

大切なのは、サッカーを"学ぶ"ではなく"遊ぶ"ということ。大人には、サッカーを"教える"ではなく、子どもと一緒に"遊ぶ"という意識への変革が求められています。

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息子が所属するフローリア2003のチームメイトたち。


サッカーを楽しむ子どもたちを見守るイタリアの指導者の温かさは、草の根の街クラブでも、プロの育成部門でも変わりません。情熱と愛情あふれる指導者に育まれ、サッカーをちゃんと"遊び"ながら、子どもたちは力強く成長していきます。

いわゆる"人間教育"をベースとする日本の伝統的なスポーツ指導の在り方は今、大きな課題に直面しています。しかし、スポーツとはただ純粋に楽しむものです。この連載でご紹介したイタリア人たちは、誰もがシンプルにサッカーを楽しんでいました。

あのロベルト・バッジョもこう語っています。

「家の廊下や近所の空き地で、仲間たちと一緒に夢中で遊んでいたからこそ、私は上手くなれた」

走り込みや筋トレなどに費やす時間があるのなら、その分、子どもたちを心行くまで遊ばせてあげましょう!

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※本連載は書籍『カルチョの休日 イタリアのサッカー少年は蹴球3日でグングン伸びる』から抜粋して加筆しています。人物の年齢等は書籍出版時点のものです。

<著者プロフィール>
宮崎隆司(みやざき・たかし)
イタリア国立ジャーナリスト協会会員。イタリア代表、セリエAから育成年代まで現地で取材を続ける記者兼スカウト。元イタリア代表のロベルト・バッジョに惚れ込み、1998年単身イタリアに移住。育成分野での精力的なフィールドワークを展開。圧倒的な人脈を駆使し、現地の最新情報を日本に発信。主な著書に『カルチョの休日 イタリアのサッカー少年は蹴球3日でグングン伸びる』(内外出版社、2018)ほか。サッカー少年を息子に持つ父親でもある。

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構成・文・写真:宮崎隆司

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