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楽しまなければ勝てない~世界と闘う“こころ”のつくりかた
子どもの自己肯定感を低下させないために。 厳しさのなかでサッカーを楽しむのに「大切にしなければならないもの」とは
公開:2018年7月31日 更新:2018年8月29日
サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜経済大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。
聴講者はすでに5万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。
高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。
日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。
根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。これから数回にわたってお送りします。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。
(監修/高橋正紀 構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)
■スポーツは人生の中でどんな位置づけにすればいいか
カヌーの日本代表候補の選手が、ライバル選手の飲み物に禁止薬物を入れたパラドーピング事件が発覚。ほかにもパドルなどの道具を隠していた彼は7月27日、偽計業務妨害の疑いで書類送検されました。是が非でも東京五輪に出るために、罪を犯してでも仲間を陥れようとしたわけです。
起きたことは取り返しがつかないものの、彼が「一流のスポーツマンのこころ」の講義を受けていればと非常に無念です。
Vol.2で、「スポーツはゲーム。ゲームは楽しむもので遊びの一種。競争して勝敗を争うもの」というスポーツのとらえかたを伝えました。選手は勝ちたいから、上達しようと思う。それを支えるのが指導者です。
日本人は、そんな遊びの一種のスポーツを、冒頭のカヌー選手のように「人生のすべて」に置き換えてしまう傾向が強いと感じます。
(C)高橋正紀
では、アスリートは自分の人生のなかで、スポーツをどう位置付ければよいかを説明しましょう。
社会の一員であるアスリートには、選手でない人たちと同様に「日常生活」があります。サッカー少年や部活生ならば、日常には友達がいて、学校生活があり、そこに学生の本分である勉強があります。スポーツはその日常生活のなかで、ルールによって創られた一種の架空の時空間である非日常で行われます。
非日常だからこそ、相手をだますといういじわるな発想が許されます。サッカーであれば、相手の予測と違うプレーをすることが勝利につながります。つまり、だましたり、出し抜くといった行為です。これは野球、テニスなどの対人スポーツに必要な能力です。その力を「ルールの範囲内」でうまく行ったほうが、より勝利に近づきます。スポーツをプレーする目的の真ん中には、こういった駆け引きの楽しみがあるのです。
■これだけやったのにどうして結果が出ない!? は子どもの自己肯定感を下げる
ところが、前述したように日本の選手は、競技結果が人生のすべて。つまり、日常と非日常(スポーツ)が一緒くたにされてしまいます。
少年サッカーの試合後、負けたチームは選手、コーチ、保護者の三者全員がまるで人生の終わりであるかのようにがっくり肩を落としている――。そんな話を、本サイトで連載もされている池上正さんの著書で読んだことがあります。
でも、ドイツでは試合で負けた子どもたちは直後こそ悔しそうにしているけれど、グラウンドから帰途につくころは笑顔です。欧州はほかの国もすべて同じ風景です。つまり、欧州の人たちは、スポーツが非日常のものであることを伝統的に理解しているのです。
欧州の人たちのようにスポーツを非日常のものとして位置付けられないからこそ、日本人は結果に対して過剰にシリアスになってしまうわけです。そうなると「結果を過度に重視する→無理に勝とうとするため子どもにスポーツをやらせすぎる→これだけやったのだから結果が欲しくなる」という悪いスパイラルから抜け出せなくなります。
そのスパイラルのなかで、子どものスポーツ障害、伸びしろの切断、バーンアウト症候群など数々の弊害が起こります。
なかでも、自信を失わせる、つまり自己肯定感を下げることに気をつけなくてはなりません。
「楽しむだけでうまくなるのか?」という疑問の声は少なくありません。ですが、今は「楽しくなければ強くなれない」と考えてください。
スポーツは厳しい世界です。その厳しさのなかで楽しみ続けるには、三つのことを大切にしなくてはいけません。
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