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楽しまなければ勝てない~世界と闘う“こころ”のつくりかた

ネットの声が後押し!? 子どもの気持ちを人質に自分の欲を満たす体罰指導者が減らない理由

公開:2018年11月14日 更新:2018年11月16日

キーワード:スポーツマンのこころスポーツマンシップ体罰指導者暴力暴言

サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜経済大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。

聴講者はすでに5万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。

高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。

日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。

根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。これから数回にわたってお送りします。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。
(監修/高橋正紀 構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)

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写真は少年サッカーのイメージです。(C)三浦卓

■言っても聞かないなら体罰もやむなし!? ネットの声が体罰を後押し

愛知県名古屋市にある私立高校野球部で、元プロ野球選手だった監督(47)が部員に暴力を振るっていたことが11月13日、明らかになりました。殴ったり蹴ったりする動画がテレビで流されています。

暴力行為をした理由は、野球以外の生徒指導に近いもの。学校に来たら携帯電話をいったん回収し下校時に返却するのが野球部の決まりでしたが、回収率が低かったからだというのです。

この事件を報じるニュースに、ネットでは「体罰は暴力と違う」といった声が寄せられていました。

<以下一部抜粋>

・体罰は相手を思う気持ちがあり受けた側にも受けるなりの理由がある。暴力は怒りの感情で振るわれるが体罰はそこには確かに愛情がある。個人的には誰かを深く傷付けたり、人の尊厳を踏みにじる行為をした人間には体罰をもって指導するべき時もあると思う(ヤフーニュースの記事コメントより)。

・暴力を正当化するつもりはないし体罰は振るわないなら振るわないに越した事はない。ある不良が体罰を振るった教師に「生徒に暴力振るうのか?訴えるぞ!!」って凄んだら「それでお前がまともになってくれるなら刑務所でもどこでも行ってやる!!」って言い返されてその不良は教師が本気で自分の事を思ってくれてる事を感じとり更正したって話を聞いた。ケースバイケースではあるけど必要な場面もあると思う。この野球部顧問はダメだけど(同上)。

さて、暴力を続けている部活動の指導者がこのようなコメントを読んだら、どう感じるでしょうか? 恐らく「やはりオレは間違っていない」と思うでしょう。つまり、社会のルールではダメだとされているスポーツ指導の現場での暴力を、社会の声が「OK」と後押しする。多くの社会規範のなかで、極めて珍しいケースです。

「ケースバイケースではあるけど必要な場面もある」とネットの声は断言していますが、その見極めを誰がしますか? 誰も出来ません。このコメントを読んで「そうだ、必要だ」と思って暴力行為に及んでしまうと、たぶんこの人たちは「それはダメだね」と断を下すのです。

■指導のつもりでも傷害罪に問われることもある

教育の現場やスポーツ指導のなかで、肉体的苦痛を与える「体罰」は明確に禁止されています。本人は指導のつもりでもただの暴力であり、傷害罪に問われることさえあります。

少し前まで、スポーツ界のパワハラ問題が続きました。例えば、日本大学アメリカンフットボール部の内田監督は問題となった"事件"をどう捉えていたのでしょうか? もしかしたら、普通に今までの流れの中でやってきたことが、そのまま繰り返されたくらいに捉えていたのではないかと感じる部分があります。まさか、あそこまで大きな波紋を引き起こすということなど、まったく想像していなかったというように感じるのです。なぜならば、あの行為は日本におけるこれまでのスポーツの価値観の中ではあり得るとの考え方の存在です。

そのあとに大阪の私立高校のハンドボール部で高校生が試合中にひじ打ちする事件がありました。前日にひじ打ちをした選手が、された選手にSNSで「殺す」といった発言をしていたため、余計に騒ぎになりました。ですが、私の大学にその私立高校から来た強化指定クラブの学生がいて、記者会見で謝っていた先生が高校時代の担任で「とてもいい先生」だったとのこと。

その学生が「もう私はメディアを全く信じられなくなった!」と言うので、「どうして?」と聞いたら、その学生の聞いた話では、ひじ打ちした子とひじ打ちされた子は、日頃からすごく仲良しで、そういう仲良し同士のノリの中で前日に「絶対今度殺す」みたいな、そういうノリでSNSを送った。しかし、メディアは「殺す」だけを切り取って否定している、と。

ハンドボールは身体接触のものすごく激しいスポーツだといいます。サッカーに比べると、狭いコート中で激しくガンガンぶつかり合うのが普通だから、この時もその高校の監督は流れの中で起きたよくあることという程度に最初は捉えていたのかもしれません。でも、それが、映像も含めて一部だけ切り取って放映され、世間が動き出してしまって対応せざるを得なくなった。実は、監督はもっと早く謝りたかったそうですが、なかなか校長の許可が出なかったらしいです。それでも、日大アメフト部タックル問題で、大学の対応のまずさがより事態を大きくした事を見ているので、出来る限り迅速に対応したということです。

ただし、「殺す」も「ひじ打ち」も決してほめられた態度ではありません。その様な言葉や行為がスポーツ界に存在してしまうこと自体が日本のスポーツ界の現状を表しているのでしょう。スポーツは、ルールの範囲内でとことん真剣に勝ち負けを争う事を楽しむのだ、という正しい理解ができていなかった点は否めないでしょう。

次ページ:体罰指導者が減らない理由

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監修:高橋正紀 構成・文:「スポーツマンのこころ推進委員会」 写真:三浦卓

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