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弱小チームのチカラを引き出す! 暁星高校林義規監督の教え
右手を失うと左手で箸を持つ「人はヤバいと思うからやるんだ」
公開:2014年12月28日 更新:2020年3月24日
※本稿は、『弱小校のチカラを引き出す』(著者・篠幸彦、東邦出版刊)の一部を転載したものです。
あなたの子どももサッカーを続けていれば通る道!? 高校サッカーのリアルがここにある。弱小校の子どもたちの力を引き出し、暁星高校サッカー部を全国出場に導いた林義規監督を追うルポルタージュ。短期集中連載、第4回。(取材・文 篠幸彦)
■生徒を追い込む理由
小学生を指導するようになり、朝から晩まで子どもたちを面倒見る日々が始まった。けれど進学校ゆえに、当初は生徒たちがサッカーに夢中になりすぎることを快く思わない人間もいた。そういった人たちと林監督は根気よく話し合って、折り合いをつけてきたという。
「よく学年で話し合いを持ったよね。『先生、夏休みはこれはやらなくちゃいけないので』って言われたら仕方ない。それは勉強だからさ、学校で勉強しないでサッカーしろなんて言えねえじゃん。でもそこは生徒の実力にもよるんだよ。『先生、この子はレギュラーで使いますか?』って言われれば、『そいつは勉強させといて大丈夫』とか、『いや、こいつはレギュラーだからいないと困るんだよ』とかね。お互いコミュニケーションをしっかりして、学校という組織でやっているわけだからさ、担任とか学校と離れちまったら協力は得られないんだよな」
そこは貸し借りなんだよ、とポツリとこぼす。
「中には反骨精神の強い先生ってのもいてさ。俺は初めの頃から朝練をやってたんだよ。7時半から開始で8時まで、月曜以外の毎朝。そしたらその先生が『7時半から朝勉強やる』って言うんだよ。勉強には勝てないからさ、畜生と思って朝練を7時からにしたんだ。それで7時半になったらその先生のクラスの子には勉強に行きなさいって。でもその朝勉強は数カ月と続かないんだよ。だけどこっちはもう7時からやるようになってるから、そのまま7時からにして未だに朝練はその時間からやってるよ」
なにが言いてえかっていうとさ、と静かに両腕を組み直し、一拍おいた。
「朝練なんてやってると生徒たちも疲れて授業中に寝ちまったりするんだよ。実際、ほかの先生に『生徒が寝てばかりだからやめてくれないか』って言われたこともある。でも俺はそうやって追い込むんだよ。生徒にしてみれば、疲れるし、眠たいし、勉強する時間も限られる。それでも、サッカー部の連中は普通の生徒より進学率が高いんだよ。なんでって言われるんだけど、そんなの当たり前だと。人はね、余裕があったらやらない。ヤバいと思うからやるんだよな」
■勉強は試験の前だからやるんじゃない
これはよく生徒にも話すんだけど、と監督は右手を差し出して続ける。
「ほとんどの人が右利きだから、みんな右手で字を書くだろ。右手で箸も持つ。左手もあるのに使わねえじゃん。でもこの右手がなくなったらどうする? 左手を使わざるを得ないんだ。左手で書いて、左手で箸を持つしかない。そうやって切羽詰まったらみんなそうするんだよ。だから学生も切羽詰らせること。朝から晩まで練習やって勉強する時間がねえ、ヤバいって。夏休みとか冬休みなんてみんな予備校行っているのに、サッカー部の連中は合宿に行ってるんだよ。そんな状況が3年間続いていると、大学に行きたければ少ない時間でなんとかしないとヤバいって。そうなるとみんな毎日コツコツやるし、授業もちゃんと聞く。俺はそれで良いと思ってる。勉強ってのは試験の前だからやるんじゃない。毎日やるもんなんだ。高3の8月は受験だから部活を引退するとか、俺はそんな文化は間違ってると思うよ」
きっとそこで勉強を放り出してしまう子どももいるかもしれない。けれど、暁星高がそうならないのは進学校だからだろうか。または監督の厳しさか。あるいは親の期待か、はたまたチームメイト、クラスメイト、先輩たちの影響か。それはきっとひとつではない。子どもは周りの多くのものから影響を受けて、自ら進む道を選ぶものである。
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