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子どもの疲れやケガを防ぎパフォーマンスを高めるには?
保護者に知ってほしい超回復の重要性と課題 谷真一郎×綾部匡之対談
公開:2023年6月23日 更新:2023年6月28日
トレーニングの後、適切な栄養と休息をとることで、トレーニング前よりも良い状態になることを「超回復」と言います。ヴァンフォーレ甲府で長くコンディショニングコーチを務めた谷真一郎さんは、超回復を始めとする『戦略的リカバリー』を奨励するひとりです。
ゆうすずこどもクリニックの院長、綾部匡之さんは、通常の小児科外来に加えて、低身長外来を通じて、成長期のお子さんの成長ホルモン分泌や体の成熟度評価を行っています。また、サッカーをするお子さんを持つパパとして、子どもたちのサッカーに触れ合っています。
『タニラダー』を通じて、子どもたちの育成に携わる谷さんと、小児科医の綾部さんに、超回復と栄養、休息について、お話をうかがいました。成長期の子どもを持つ保護者の方にとって、必見の対談をお届けします。(取材 文・鈴木智之)
■超回復には適切な栄養補給と休息が不可欠
谷:対談のテーマが「超回復」ということで、最初に説明をさせていただくと、人間は運動をすると、エネルギーや水分など、色々なものが体から失われていきます。車を走らせると、ガソリンがなくなるのと同じです。ガソリンが少ないと、当然、動くことのできる距離が少なくなります。
綾部:そうですね。
谷:そのため、食事を中心に栄養を補給することが必要なのですが、筋肉は運動によってダメージを受けると、修復の過程で以前よりも強くなります。それが「超回復」で、そのためには、適切な栄養補給と休息が不可欠と言えます。
綾部:私は子どもが2人いまして、中学1年生と小学4年生なのですが、2人ともサッカーをしています。サッカーをするお子さんのご家族で、「身長がなかなか伸びなくて」「体が小さくて」と悩む方の中には、食事面に気を使っている方もたくさんいるのですが、実際に血液検査をすると、亜鉛が足りなかったり、鉄分が不足していたりと、成長に必要な栄養が十分にとれていないことがあります。サッカーを頑張っている子ども達は、ご家族が思っているよりももっと栄養が必要なのだと感じます。
谷:リカバリーのためには「食事が大事!」ということで、白米をたくさん食べる子もいますが、栄養素は相互に作用するので、炭水化物だけではなくて、タンパク質やビタミン、ミネラルなど、バランスよくとることが大切なんですよね。あとは、練習をしすぎないこと。これは成長期の小中学生には、とくに大切なことだと思います。
■身長が伸びないと悩む方へ
綾部:私のクリニックに来るお子さんの中には、サッカーをものすごく頑張っていて、でも小柄で身長がなかなか伸びなくて...という子もいます。メッシ選手がそうであったように、成長ホルモンの分泌不全がないかを疑って来院される方が多いのですが、詳しく検査をすると、成長ホルモンを出す力は問題がないけれども、トータルで見たときに栄養が足りないとか、強いストレスが原因で、成長ホルモンの量を反映するマーカーの数値が低くなるケースも多いんです。
谷:子どもたちと接する中で、戦略的にリカバリーをすることや、栄養・休息をとることに、もう少し目を向けてもいいんじゃないかと思うことも多々あります。エネルギーもそうですが、サッカーのしすぎで筋肉が壊れ、汗などでビタミンやミネラルも失われているので、栄養や休息をとって体を戻さないと、状態は悪化してしまいますから。
綾部:おっしゃるとおりだと思います。
谷:アスリートの中で『戦術的リカバリー』という言葉が使われるようになってきましたが、ただ食べて寝るところから、どのタイミングで何を食べて、より深い睡眠を得るために何をするのか。リカバリーの質を上げていくことが重要で、成長期の子どもたちもアスリートと同じように、そこに意識を向けてもらえればと思います。
■体を休ませる時間が必要
綾部:クリニックでサッカー少年の肥満度*を算出すると、肥満度がマイナスの子が多いんですね。そのような子に話を聞くと、平日は毎日のようにクラブやスクールでサッカーをして、週末は1日何試合もしているそうです。『もうちょっと、体を休める時間を作ってもいいんじゃない?』という話はしますね。
*肥満度とは、実測体重が性別・身長別の標準体重に対して何%の増減に当たるかを示す指数。
計算式は次の通り。肥満度={(実測体重-標準体重)/標準体重}×100 (%)
谷:今の話で、現代の子どもたちの問題点がよくわかります。サッカーのしすぎです。学校のテスト期間に運動をやめると身長が伸びたり、修復しきれなかった筋肉が治って、体重が増えることがあります。休養とトレーニングをセットで考えることが大事で、これをいかに保護者や選手にわかりやすく伝えるか。成長期の子どもの場合、毎日体重を測って、なるべく増やすことを心がけるのがいいと思います。体重が減っている=栄養が足りていないので、そこは気をつけてほしいです。
綾部:人間の体には季節性があるので、夏は身長が伸びやすい時期なんですね。でもサッカー少年・少女の場合、暑い中でサッカーをしすぎて、体重が減ってしまう子もいます。谷さんが言うように、日々の体重を追っていくことで、体の状態がわかるので、それは大切なことだと思います。
谷:あとは食事ですね。JFAのHPに掲載されている情報によると、10代のサッカー少年に栄養調査を行ったところ、必要な栄養量が満たせていないという結果が出ています。たとえば、ビタミンやミネラルはお互いに関わり合って働くので、なにか1つをたくさんとっても、他の栄養素が少なければ働かなかったりするわけです。その辺の知識も、保護者や選手に伝えていきたいです。
綾部:炭水化物であるお米やうどん、パスタなどをエネルギーに変換するときには、ビタミンB1が必要です。食事だけでは補いきれない栄養素をどう摂取するのかを、保護者の視点で考えてあげるのも、大事なことではないかと思います。
■食事の準備に頑張りすぎない
谷:成長期のお子さんにとっては、サッカーのパフォーマンスを向上させることと同じかそれ以上に、体を大きくすることも大切です。とくに夏場は暑さや食欲の減退でストレスが多くなるので、いかに動きやすい体重をキープするかに意識を向けるべきだと思います。
綾部:低身長外来で話を聞く中で、親御さんがすごく頑張って食事を作ってはいるけど、「子どもの食が細くて、あまり食べてくれないんですよね」と悩んでいる方も多いです。
谷:そのようなご家庭もあるでしょうね。
綾部:ご家族にとって食事が苦痛になってしまわないように、あまり頑張りすぎないことも大事なのかなと思います。実際の診療の現場では、血液検査の結果をみて亜鉛や鉄の数値が低ければ、まずその栄養素の摂取を意識していただくよう説明しますが、親御さんが思い詰めてしまうような方であれば無理させず、お薬という形で内服加療することや、サプリメントの摂取を取り入れることもお勧めしています。ビタミンにしても成長に必要な栄養素なので、食事でとりきれないところは、サプリメントを活用するのもありなのではと思っています。
谷:私もそう思います。食事で必要な栄養がとれないのであれば、他のもので補うべき。親も子も負担にならないで、成長に繋げることができたら、それが一番いいことですからね。
筑波大学在学中に日本代表へ招集される。同大学卒業後は柏レイソル(日立製作所本社サッカー部)へ入団し、1995年までプレー。 引退後は柏レイソルの下部組織で指導を行いながら、筑波大学大学院にてコーチ学を専攻する。その後、フィジカルコーチとして、柏レイソル、ベガルタ仙台、横浜FCに所属し、2010年から2019年までヴァンフォーレ甲府のフィジカルコーチを務め、現在はフィットネス・ダイレクターとして幅広い年代の指導にあたる。『日本で唯一の代表キャップを持つフィジカルコーチ』
小児科医(日本小児科学会認定小児科専門医・認定小児科指導医)・博士(医学)
国立成育医療研究センター、エコチル調査メディカルサポートセンターなどの勤務を経て2019年9月に「ゆうすずこどもクリニック」を開院。一般小児科診療を行うとともに、低身長や思春期の発来時期に悩むお子さんの専門診療も行っている。また、ビジョントレーニングやスポーツコンディショニングなどを行う多機能型子育て応援施設「アンチクラムジーステーション」を2022年4月にオープンし、様々な理由で集団生活(スポーツ)の中でうまくいかず悩みを抱える子ども達のサポートを行っている。その他、地域の自治会長として、地域に住む子ども達が楽しく体を動かす場、気軽にマルチスポーツに触れる場として、2021年4月から「大門美園ジュニアスポーツフェスタ」を企画運営している。
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