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あなたの支え合う心が、子どもの成長を加速させる
あなたは大丈夫!? サッカー歴30年のお父さんが陥りやすい落とし穴
公開:2016年1月12日 更新:2016年1月20日
コーチそっちのけで試合中に怒鳴り声で指示を出すお父さん。「行けー」「決めろー」と声を張りあげるお母さん。子どもたちを思う気持ちは同じですが、子どもたちがこうした声を気にして萎縮してしまうケースはいまだに全国各地で見られる残念な光景です。
「経験者ほど口を出してしまう」
自分ができる分、思うようにプレーできない子どもたちにいらだつお父さんも少なくありません。『こくみん共済SC』の頼れる経験者・島津幸男さんもそんな“ボール蹴れる系ガミガミお父さん”の一人。でも、そんな嶋津さんだって子どもの頃は、ミスをしながらトライ&エラーで上達していったに違いないのです。(構成 大塚一樹)
今回、読者の疑問に答えてくれる『こくみん共済SC』のメンバーはこの人
嶋津幸男(37歳)
【職業】IT系会社員
【チームでの役割】送迎、アウトドア担当
【応援スタイル】[熱血へばりつき型]
コートのすぐそばでずっと息子に指示を与え続ける。
【備考】
サッカー歴30年。大学でも体育会系でサッカーをしていたエリート。
基本的にはチームの輪を重んじるいいお父さん。しかし、試合が始まると様子が一変。自分は天然でうまいタイプだったため、なかなか思うようにプレーできない息子を見ているといらだって指示を出してしまう。チームのコーチやパパさんママさんは、言葉には出さないものの、彼の応援スタイルに疑問を持っている。
※このキャラクターはフィクションです。登場する人物、団体名は実物のものとは関係ありません。
■サッカー歴30年 経験者が陥りやすい迷路 嶋津幸男の視点
「そっちじゃないだろう!考えてパスを出せー!」
(練習したことができてない。ああ、もう。またミスだ。なんでできないんだ!)
私の名前は嶋津幸男。小学生から大学までサッカーをプレーし、高校のときは県選抜に選ばれたこともありました。大学在学中にサッカーから離れ、それからはボールを蹴ることもありませんでしたが、子どもがサッカーをはじめたのを機にまたグラウンドに戻ってきました。
子どもたちのサッカーに触れるようになっての感想を一言で言えば、「自分でプレーした方が楽」ということ。基本技術ひとつとっても、どうしてこんなにぎこちないフォームになるのかと思ってしまいます。上達の秘訣は練習あるのみ。丁寧に教えても結局は本人のやる気次第なんです。あ、またパスミス。これはきちんと指摘しないとこの先困るのは子どもたちです。
「3回目だぞ。弱い横パスでボールを奪われたらピンチになるに決まってるだろ!」
オーバーコーチングが良くない。怒鳴っても効果がない。子どもたちの自主性が大切。その考えには大賛成ですが、黙って何もしなければ子どもたちにいいプレー、悪いプレーを教えることはできません。自主性を重んじるのと放任主義は違うというのが私の持論です。
■親ができるサポートって何だろう? 未経験者・加藤和雄の視点
「そっちじゃないだろう!考えてパスを出せー!」
(今日も嶋津さん張り切ってるなぁ。ああ、またちょっとイライラしてきたぞ)
嶋津さんはこくみん共済SCのお父さんの中でも一番のサッカー経験者。コーチのお手伝いをするにしても、デモンストレーションは抜群にうまく、遊びでボールを蹴ったことしかない私とは雲泥の差。さすがに腕に覚えありの人は違うとみんな一目置いています。
でも……
経験者だからこそでしょうが、試合を見ているときの彼はいつもイライラしているんです。自分ができてしまうだけに、思うようにプレーできないわが子やチームメイトにもどかしさを感じるのはわかるのですが……
「3回目だぞ。弱い横パスでボールを奪われたらピンチになるに決まってるだろ!」
あー、ついに大声で怒鳴ってしまいました。嶋津さんの息子さんはチームでも一番ボールを持てる選手で、中盤のキーマン。パスミスが続いたこともありますが、お父さんの大声にすっかり萎縮してしまいました。嶋津さんの言っていることは正しいのかもしれませんが、結果として子どもが萎縮して嶋津さんの方を見てプレーするようになっているのは事実です。コーチもいることですし、もっと違うサポートの仕方があるような気がします。
※
「ピピーッッ」
試合終了の笛が鳴り響きます。結果は1―3でこくみん共済SCは惜しくも敗退。あいさつを終えた選手たちが戻り、次の試合のためにベンチを空け移動をはじめます。興奮冷めやらぬ嶋津さんは、この短い時間を見逃さず、息子のところに駆け寄って耳元で何かアドバイスをしています。
移動した後は平川コーチのミーティングです。
「今日は結果は残念だったけど、それは気にする必要はないよ。でも、負けているときにチャレンジしないプレーが目立ったことは残念だな。ミスをするのが怖いっていう気持ちはわかるけど、チャレンジをしないとチャンスも作れないよね」
負けて下を向いている子どもたちの中で、嶋津さんの息子だけが目を輝かせてコーチの話を聞いています。試合の興奮が落ち着いた嶋津さんは、コーチの話を聞いて息子の今日のプレーを思い出していました。
(そういえば、前半は果敢にチャレンジしていいプレーしていたなぁ。後半はなんだかやる気がなかったように見えた)
ミーティングが終わり帰り支度をしているとき、嶋津さんの元にチームメイトの父・加藤さんが近づいてきました。
加藤「息子さんナイスプレーでしたよ」
嶋津「いやいや、まだまだです。なんであんな簡単なプレーもできないのか」
加藤「嶋津さんは自分ができちゃうからなあ。私なんかサッカー全然できないんで、子どもたちのプレーでもすごいなと思っちゃいますよ。プレーが教えられるっていいなぁと思っちゃいます」
嶋津「そんなものですかねぇ。なんでできないんだってイライラすることばかりですよ。わかっていても怒鳴っちゃって。お恥ずかしい」
加藤「たしかに私も自分ができないのに口出ししたくなっちゃうときもありますからね。でも、サッカーって自分たちで決めてプレーできるからいいなあと思うところがあるんですよね。サインとか指示とか間に合わないし」
※
お父さん同士の何気ない会話ですが、嶋津さんには感じるところがありました。平川コーチの言っていた前半と後半のサッカーの違い。ミスを指摘して直して欲しいと思っていたのに、自分が怒鳴ったことで「ミスを恐れるプレー」にしてしまったのではないか。少なくとも息子は自分の声を気にしていた。
(たしかにサッカーってもっと自由で、楽しいものだよな。加藤さんの言うように自分で考えてプレーするのが楽しくてボールを追っていたよなあ)
嶋津さんは、自分がサッカーを心から楽しんでいた時のことを思い浮かべます。
※
翌週の練習試合、ベンチサイドにはイライラして腕組みしながらもいつものような怒鳴り声を我慢する嶋津さんの姿がありました。
(あっ、また。あっちに出せばチャンスなのに・・・・・・ブツブツ)
声にならない独り言を心の中でかみ殺しながら、ネガティブな声がけを極力しないようにしてみると、子どもたちがそのときそのとき判断してプレーしているのが見えてきます。
(ああ、あそこで前を向けばチャンスだけど、たしかにあの子の技術だとちょっと怖いだろうな。そうか、じゃあ今度練習でそこをやってみよう)
しばらく我慢して試合を観ていると、いままで「なんでできないんだ?」と思っていたことが「どうしたらできるようになるだろう?」という次につながるポジティブな課題に見えてきた気がします。
ミスについても同じように、ミスが起きたことにいちいち反応することを控えるようにすると、平川コーチの言っていたチャレンジの意志があるプレーがあることが見えてきたのです。
(ミスする度に怒られたらミスしないようにってなるよな。そういえば自分もそうだった。監督と違う発想でもゴールにつながれば良いじゃんって思ってたなぁ)
試合終盤、嶋津さんの息子が相手陣内でボールを奪います。チャンス! サイドと中央に味方の選手が前線に走り込みます。サイドの選手はフリーでしたが、よりゴールに近い中央の選手に強いボールを蹴ってスルーパスを狙います。
「あっ、足届くぞ!」
嶋津さんは思わず声に出してしまいましたが、このスルーパスは相手DFの足が伸びてミスになってしました。
「ナイストライ!」
嶋津さんの隣にいた加藤さんが親指を上にあげて大きな声を挙げます。嶋津さんの息子は少しこちらを見た後、パスを出さなかったサイドの選手に親指をあげて合図を送ります。
(なんだ、ちゃんと見えていたのか。サイドが見えていてチャレンジしたならいいプレーだ)
気がつけば嶋津さんも一連のプレーに拍手を送っていました。
※
嶋津さんのようにサッカー経験の豊富なお父さんは、自分の価値観を押しつけがちです。自分たちが何十年もかけて学んできたことを子どもたちにそのまま押しつけるのは、明らかに間違いでしょう。子どもたちも嶋津さんと同じように自分で考え、ミスから学び、ゴールの喜び、悔しさを糧にして上達していくのです。
たしかに、他の人よりサッカーがよく見える嶋津さんのストレスは他のお父さんの比ではありません。このできごと以降、試合でも怒鳴る回数は減りましたが、それでもやはり声に出してしまうこともしばしば。本人もこれを反省していたようです。加藤さんらサッカー未経験者のお父さんからも学びながら、最近では指示をするような声がけだけはしなくなりました。
■嶋津幸男さんのけがの保障に関する疑問
「サッカーが楽しくない。子どもたちにとってこんな不幸なことはありませんよね。楽しくなくなる要因はたくさんあって、今回のできごとで自分がその原因になるかもしれないということに気付かされました。自分の場合はけがでした。高校時代に痛めたひざが大学の時に悪化してサッカーをやめざるを得なくなった。プレーしたくてもできない。これはすごく悲しいことです。けがをしないのが一番ですが、けがをした時の準備はやはりしておくべきです。」
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構成 大塚一樹
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