インタビュー
インタビューのプロ二宮清純さんに聞いた「今日の試合どうだった?」「別に......」で終わらせない会話術
公開:2022年6月21日 更新:2023年6月30日
近年、新型コロナウイルスの影響で、保護者が子どものサッカーを観戦する機会が減っています。そんな中、子どもにサッカーのことを聞くと「別に」「普通」など、そっけない反応が返ってくることも多いのではないでしょうか。
そこで今回は、スポーツジャーナリストとして多くの著名人、アスリートの取材をしてきた二宮清純さんに「子どもの答えを引き出す、質問の仕方」についてうかがいました。「質問のプロ」でもある二宮さんは、相手とコミュニケーションをとるときに、どんなことに気をつけているのでしょうか?
(取材・文 鈴木智之)
後編:二宮清純さんに聞く子どもとの会話術 試合後は「勝った?」より「今日なんかいいことあった?」と聞こう>>
■子どもに質問する時にどんなことを心がければいいのか
スポーツジャーナリストとして数々の著名人、スポーツ選手にインタビューをしてきた二宮さんに、「親が子どもに質問をするときに、どんなことを心がければいいのでしょうか?」と尋ねると、次のような言葉が返ってきました。
「言葉だけに頼らないことですね。人間の本音は表情やしぐさに出ます。お子さんが『大丈夫』と言っても『本当に大丈夫なのか?』と、言葉どおりに受け取らず、観察することが大切だと思います」
二宮さんは自身のジャーナリスト生活を振り返り「インタビューをするとき、言葉だけに頼ると失敗します。仕草や態度、表情、目や指の動きなど、いろいろなところにその人の考えや心配していること、訴えたいことは出ますから」とアドバイスをくれました。
■「別に」「普通」で終わらせないためには、言葉だけに頼らないこと
お子さんが何か問題を抱えていたとして、言葉では「何もないよ、大丈夫だよ」と言うことがあります。それは親を安心させるためかもしれないし、喋りたくないこともあるでしょう。
「それは親子間だけでなく、夫婦間でもそうですよね。奥さんの機嫌が悪そうなときに『どうしたの?』と聞いても『何でもない』『大丈夫』と言うかもしれせん。でも、そのときの言い方や表情、しぐさに情報が含まれていますから、それを見逃さないことですね」
子どもがサッカーを終えて「今日どうだった?」と聞くと「普通」「別に」などの返事があったとします。そのときに、言葉の裏側にある感情に目を向けると、一歩進んだコミュニケーションがとれそうです。
「子どもが『別に』と言ったとしても、怒ったような『別に』なのか、本当に何もない『別に』なのかで、イントネーションが違いますよね。そのニュアンスにヒントが隠されているので、よく観察することですね。その中で、イライラしている素振りがある、足をバタバタさせている、目に落ち着きがないなどの変化を感じたら、ひょっとして何かあるのかな? と考えを巡らせてあげてほしいと思います」
■何かあったと感じても無理に聞き出そうとするのは逆効果
二宮さんは、「子どもの変化を感じた場合、その場で『何があったの?』と問い詰めない方がいいですね」と、優しく語りかけます。
「問い詰めることで、相手が態度を硬化させることがあります。インタビューをするときに、無理やり首根っこを捕まえて『喋れ』と言っても喋りませんよね。取材対象者に、『この人になら話をしてもいいかな』と思ってもらえるように、手を変え品を変え、コミュニケーションをとりながら話をしてもらうのが、僕らの仕事です。相手が自分の子どもであっても、そのような配慮はするべきだと思います」
子どもはひとりの独立した人間です。小学生の頃は親の庇護下にありますが、いち個人として尊重することから、良好なコミュニケーションは始まります。
「大人も子どももそうですが、喋りたくないことってあるじゃないですか。それを無理に聞き出そうとすると逆効果になるので、相手が話したくなるまでは、見守る方がいいと思います。ただし忘れてはならないのが、子どもの異変に鈍感でないこと。気がつきつつ、見守るというスタンスがいいと思います」
■親子でも距離感が大事。近ければいいわけではない
そんな中で、様子がおかしいと感じることが続くようであれば、話をするようにうながすのが良さそうです。
「異変が何日も続くのであれば、『話してごらん』と、優しく諭すように言ってあげるといいのかなと思います。親が子どものことを一番よく知っているわけで、観察していたら、いつもと違うなと察知できるはず。それが大事なことだと思います」
キーワードは観察すること。そして、大切なのはお互いの距離感。二宮さんは「スポーツは距離感を教えてくれる」と言います。
「選手とコーチ、親御さんと子どももそうですが、スポーツは距離感のトレーニングになります。距離感はすごく大切で、ただ詰めればいいというわけではないんですね。相手の近くに寄り過ぎると見えづらく、離れすぎても見えません。カメラと一緒で、顕微鏡が必要なときもあれば、双眼鏡が適しているときもあります。今日は顕微鏡で見てみようか。少し引いて双眼鏡で見てみようかと、どちらの視点も持ちながら、子どもの置かれた状況に応じて使い分けることが大切なのかなと思います」
■子ども自身が自分と向き合う時間や逃げ場を用意してあげよう
二宮さんは取材時に、「いまは離れて見たほうがいい」「ここは近づくべきだ」など、対象者との距離感を意識しているそうです。
「木を見て森を見ずという言葉がありますが、僕は木も森も両方見るべきだと思うんです。それが、相手とのいい距離感を保つ方法だと思います。そして、ときには立ち入らないこと。子ども自身が自分と向き合う時間を大切にしてあげてほしいし、逃げ場を用意することも必要です。それを考えることが、親と子の適度な距離感を推し量る上でのヒントになるのではないかと思います」
会話を交わす中で、お子さんの様子を観察し、状況に応じて距離感を変えて接してみる。それが良いコミュニケーションにつながると、二宮さんは教えてくれました。
後編では、具体的な質問の仕方や、コーチとのコミュニケーションについて紹介します。
二宮清純(にのみや せいじゅん)
スポーツジャーナリスト。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。
1960年、愛媛県生まれ。スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。五輪・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。
広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。経済産業省「地域×スポーツクラブ産業研究会」委員。認定NPO法人健康都市活動支機構理事。著書に「勝者の思考法」「人を見つけ人を伸ばす」「人を動かす勝者の言葉」など多数。
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