サッカー豆知識
言い訳を探す子は伸びない。失敗を重ね、28歳で米国留学の元Jリーガーが語る"サッカー後"のキャリアの築き方
公開:2017年10月16日 更新:2023年1月30日
前回は、憧れのJリーガーになりながらも2年で引退した理由、プロになる前に身につけておいた方がいいスキルなどについてご紹介しました。後編では、セカンドキャリアを意識したスポーツを通じてのアメリカ留学のメリットと、留学するうえで心がけたいことをお伝えします。
自身の経験をもとに、元Jリーガーの中村亮さんが渡米・留学サポート会社『With You』を立ち上げたのは6年前のこと。28歳を過ぎてからアメリカの大学に留学した際に「アスリートなりの学び方がある」と気付いたことがきっかけでした。(取材・文:原山裕平)
(写真は少年サッカーのイメージです。記事内容とは関係ありません)
■日本では平均的でも、海外では高く評価されるスキル
一般学生の留学のサポート業務も行うものの、中村さんはあくまで「スポーツがキーワード」と語ります。
「僕のようにサッカーばかりやってきた人間でも英語を身に付けることができた」という経験を、同じような境遇に置かれてきた高校生たちに味わってほしいという想いが大きいからです。
まず、中村さんはアメリカの大学に進むメリットを次のように語ります。
「日本の大学はやっぱり、居心地が良すぎるんですよね。この4年間で、遊べるだけ遊んでおけという風潮が、まだあると思います。一方でアメリカは、社会人の下地を身に付ける期間としてとらえられています。日本の企業の新人研修で習うようなことは、大学のうちに身に付けていますし、インターンもほとんどの学生がやっている。一言でいうと逞しいんです。もちろん、日本人がその中に入ると理不尽に感じることも多いし、ストレスがたまることもあります。でも、言葉も文化もルールも違う中で、何とかしていかないといけないという気概が生まれてくる。若いうちにそういう困難を乗り越えていくことで、言葉を覚えられるのはもちろん、逞しさも育まれていくんです」
またサッカーを続けていくという意味でも、アメリカの大学にはとてもいい環境があると言います
「日本人のように足もとの技術の高い選手は、アメリカには少ないんですよ。だから、日本の中では平均的な技術であっても、アメリカにいくとそこが長所になる。もちろんパワーやスピードでは敵わない部分もありますが、それだけではサッカーはできませんから。日本人の技術や戦術眼といったものは、アメリカの中では際立つし、向こうの監督も高く評価してくれる人が多いですね」
■学業成績が悪いと試合に出られない
ちなみに、アメリカの大学では学業がおぼつかない選手は試合に出られないという規則があり、スポーツと学業の両立が求められる点も、優れた環境であると中村さんは付け加えました。
(写真は少年サッカーのイメージです。記事内容とは関係ありません)
現状、サッカー選手を目指すためにブラジルやヨーロッパに留学する選手が多いなか、その夢が絶たれれば、すべてを失うことになりかねません。しかし、このアメリカ留学の目的は、あくまで語学力の向上や社会性を培うことにありますが、大学でサッカーを続けながら、上手くいけばプロも目指せるという付加価値も備わる点に最大の魅力があるのです。
「もちろん、サッカーをやりたいという目的だけでは、この留学は意味がないかもしれません。でも、語学を学び、社会性を身に付け、プロのサッカー選手になれる可能性もある。たとえなれなくても、手に入れられるものは大きいはずです」
■プロスカウトの目に留まるチャンスも
実際にプロになるハードルは、日本に比べれば決して高くないと中村さんは言います。アメリカの大学は2シーズン制が主流で、シーズンによって違うスポーツに取り組む学生が多いそうです。サッカーとアメフト、バスケと野球といったように、複数のスポーツに携わるのです。
もちろん、サッカーだけをやりたい場合は、1シーズンを大学のリーグで行い、もう1シーズンはアマチュアリーグに参加するという手段もあるそうです。そのアマチュアリーグでは、プロのセカンドチームも参加しており、そのためプロのスカウトの目に付きやすい環境にあるのです。
また大学リーグの個人ランキングで20位以内に入ると、プロリーグのドラフトにかかる可能性が高く、実際に中村さんがサポートした留学生の中にも、そうした選手が出てきているそうです。
中村さんがこの仕事で最も大事にしていることは、サッカーだけをやって来た子を、次のステップに進む手助けをしてあげることだと言います。
「サッカーは終わり方が大事だなと思います。プロになれる、なれないはありますけど、自分がやり切ったかどうか納得して、次のステージに進むことがなにより大事なこと。高校では光は浴びずに消化不良に終わってしまった。サッカーを続けたいけど、日本の大学でやるレベルにはない。そこで諦める子がほとんどだとは思いますが、そうではなく、海外という新しい環境で頑張るというのは、すごく前向きなことだと僕は思います」
■言い訳、逃げ道を作っている状態では成長しない
もっとも、高校時代にあまり勉強をしてこなかった子が、いきなりアメリカ留学を決断するのには、それなりの覚悟が求められますし、生半可な気持ちでは上手くいかないでしょう。
「そうですね。そういう子は、やっぱり言い訳づくりが上手い。人のせいにしたり、他のもののせいにしたり。海外で生活するにはそれなりのハードルがあるわけですから、そういう意味では精神的にタフであることが留学に向いている一つの要素かと思います」
また中村さんは「サッカーだけやりたい子は来ないほうがいい」と言います。
「他の面で苦痛が伴いますからね。でもサッカーがあるから頑張れる。サッカーを本気で頑張ってきた子ほど、監督の英語を必死で聞き取ろうとするし、『このクラスの単位を取れなければ大好きなサッカーができない』という気持ちで頑張りぬける。各大学のサッカー部監督が、選手を出場させるために学業の叱咤激励してくれるのも魅力ですね」
「極論ですけど、我々はサポートはできますが、決定はできないんです。それは、あくまで本人次第。それでもだいたい半年で変わりますから。最初は親の言いなりだった子が、自分の意見を持ち出すようになる。だから、変われるチャンスが欲しい人は挑戦してほしい。そういう子たちが変われる土壌が、アメリカには間違いなくありますから」
サッカーを続けながら、語学を学び、社会性を身に付けられ、そして次のステップを踏み出せる。もちろん、プロの道をあきらめる必要もない。これぞ、新しいサッカー留学の形と言えるのではないでしょうか。
中村亮(なかむら・りょう)/株式会社 WithYou代表取締役
元サッカー選手。現役時代のポジションはDF。2004年、FC東京に入団。スピードのある大型SBとして期待されるも、ヒザのケガなど故障が原因で出場機会を得られず2005年シーズン終了後に引退。中学教諭や芸能活動を経た後に渡米し語学と経営学を学ぶ。現在は株式会社 WithYouで、アメリカの大学へのスポーツ推薦留学などをサポートしている。
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文:原山裕平