こころ
「GKは準備が9割」ドイツでGK指導を務めたコーチが教える、ゴールを守るために大事な"予測"
公開:2018年8月20日 更新:2021年4月26日
古くはゼップ・マイヤー、シューマッハ、2000年以降はオリヴァー・カーン、現在はマヌエル・ノイアー、テア・シュテーゲンといつの時代も国際大会で結果を残してきたドイツには、常にワールドクラスのGKがいました。
なぜ、ドイツから優れたゴールキーパーが次々に輩出されるのか? ドイツで7年間GKコーチとして活動し、現在はFC岐阜でGKコーチとして、日々指導にあたる川原元樹氏のインタビュー後編では、「良いGKを輩出するためにできること」をテーマに話を訊きました。
(取材・文:鈴木智之、写真:新井賢一)
<<前編:身体が大きい=GKではない。GK大国ドイツから世界レベルのキーパーが生まれ続ける理由
<目次>
1.日本サッカー界が抱えるGK育成の課題 ミスばかりクローズアップしたらGKやりたい子が減る
2.GKは準備が9割 相手の動きを読んで止められると楽しくなる
日本代表の守護神、川島永嗣(C)新井賢一
1.日本サッカー界が抱えるGK育成の課題 ミスばかりクローズアップしたらGKやりたい子が減る
――日本のサッカー界ではGKが軽視されているというか、「ゴールを決める、ゴールを守る」というサッカーの本質に直接関わるポジションにもかかわらず、適切な評価がされていないと感じることがあります。
現在はSNSの普及によって、誰でも批評家になれる時代です。そして、分かり易いミスを批評するのは簡単で、それをSNSに映像と共にコメントを上げる。それが世界中に拡散され、そこに気づいていなかった人たちも一緒になってそのミスについての批判を始める。昔からゴールキーパーのミスはあったのですが、現在は多くの人がそのシーンをSNSやネット上で目にする機会が圧倒的に増え、「GKのミスが増えている」、「このGKはミスが多い」という錯覚に陥り易い状況です。
元アーセナル監督のアーセン・ヴェンゲルも「多くのGKは、普段発揮しているプレーに見合った評価を受けていない」と言っていましたからね。なぜそうなるのかというと、GKのミスは失点に直結するからだと思います。一方で、良いプレーをするとプレーは途切れないので、そこに目が行かずに次の局面にすぐに移ってしまいますよね。GKがファインセーブをして、それがきっかけでゴールが生まれたとしても、アシストなどの記録がつくわけではありません。記憶に少し残る程度です。
――ロシアW杯の日本対ベルギーの決勝点で、GKクルトワのキャッチとすぐにデ・ブライネに渡したパスがゴールの起点になりましたが、それを評価する人がどれだけいるかということですね。
GK経験者は当然そこを評価しますが、フィールドプレーヤーやファンの方にも、そういったところにも目を向けていただけると、また違ったGKの見方ができると思います。あの状況でクルトワは最善の選択をしたと思うのですが、それはなぜできたのか。少し掘り下げて考えても面白いと思います。
逆にミスばかりがクローズアップされてしまうと、キーパーをやりたい子が出てこなくなりますし、ご両親も「できればうちの子にはGKをやってほしくない」と思う方がいても不思議ではありません。また、チームを指導している指導者の方も是非GKにも目を向けていただきたい。
このようなことを言っている私もドイツで最初の指導者ライセンスを取得した際、教官に対して守備のチーム戦術をマグネットを使って説明していた時に「前からプレスをかけるときは...」という感じで、FW、MFとDFのマグネットを動かして説明したんですね。そこでGKのマグネットを上げなかったら、教官にすぐ「GKはその場所で突っ立ったままか?」と指摘されてしまいました。
――GKコーチの川原さんでも、ゴールキーパーのポジションを移動させることをさせなかったと。
はい。チーム全員にプレーの説明をする際に指導者は気づいていないだけで、GKからすると「自分は忘れられているんじゃないか」と感じていることはたくさんあると思います。GKも含めた11人で試合をするわけで、10人+1人でプレーするわけではないですからね。
「GKの存在価値」といった点でいうと、育成年代の大会やフェスティバルでは得点王やMVPは表彰されますが「ベストGK賞」があることはあまりないですよね。ドイツでは、私が参加した大会では、参加者の前でGKグローブの形をしたトロフィーを嬉しそうに掲げる子どもをいつも見ることができました。
こういうところにもGKをしている選手がしっかりと「喜び」や「自己肯定感」、「成功体験」を感じることができる配慮がしてありました。
――フィールドプレイヤーやフィールド出身の監督が気づかないところで、GKの受難があるわけですね。
そういうことも十分あり得ると思います。ただし、GKにはそれに耐えるメンタリティも必要です。周りに評価されなくても、自分は良いプレーをしているという自己肯定感を持つこと。他人からの評価を求めすぎるのはよくありません。
前回、ドイツ人は自己と対話をして、自分を高めていくという話をしましたが、そういったメンタルも含めて良いGKになるために必要な要素だと思います。
――日本サッカー界の課題のひとつにゴールキーパーの育成がありますが、今後、大切になるのはなんだと思いますか?
GKを目指す子供を増やすために「GKの存在価値の向上」、有能なGKを逃さない、発掘するために「若年層のスカウティング」、GKが安全に楽しく技術を向上することができるように人工芝を増やす等の「グラウンド環境の整備」、色々あると思いますが、一番はGK指導者の数が増えること、また「指導者のさらなるレベルアップ」が必要だと思います。
GK大国のドイツでさえ、「指導者の質の向上」、「指導者の数を増やすこと」は現在でも力を入れて取り組んでいるプロジェクトです。チームの垣根を越えて情報交換をしながら、子どもたちが憧れるスターGKをまずは1人輩出すること。そして、各チームがGKの重要性を理解して、クラブにGKコーチがいるのが当たり前の環境になると、日本にもさらに良いGKが増えるのではないとかと思います。
指導に関しては、GKトレーニングはもちろんですが、サッカー以外のスポーツをすることも大切だと思います。ノイアーはサッカーの他にテニスをしていましたし、FC岐阜のビクトルはFCバルセロナのアカデミー時代に、サッカーとハンドボールをしていました。GKは様々な運動能力が求められるポジションなので、特に育成年代時に複数のスポーツに取り組むことはプラスになると思います。