考える力
「全員出場」が子どもたちの成長につながることを指導者たちも実感、プレミアリーグU-11がチーム強化につながるわけ
公開:2021年8月10日
キーワード:3ピリオド制FUTUROあざみ野FCサッカー大会プレミアリーグU-11ホーム&アウェーレギュラー全員出場大豆戸
プレミアリーグU-11が誕生して7年。全国36都道府県537チームが参加する、日本最大のリーグ戦に成長しました。「全員出場」「3ピリオド制」など、独自のレギュレーションを設け「力の拮抗した相手と、年間を通じてホーム&アウェイを戦う」ことを目的とし、日本にリーグ戦文化を根付かせるための活動を続けています。
プレミアリーグU-11創成期からのメンバーであり、70チームが参加する、長谷工プレミアリーグ神奈川U-11(プレミアリーグ神奈川U-11)の責任者を務める、末本亮太氏(大豆戸FC監督)に現状をうかがいました。
(取材・文:鈴木智之)
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■試合に出ることで成長し、うまくなるという考えが広がってきた
6月に行われた、横浜市春季少年サッカー大会。ベスト4に進んだ全チームが、プレミアリーグ参加クラブでした。末本氏は「チームや選手の強化という視点から、プレミアリーグの影響は大きいと感じています」と、日焼けした顔で話します。
「リーグ戦を通じて選手たちが成長し、強化につながっている面は間違いなくあると思います。プレミアリーグに参加しているクラブの中に、『子どもたちは試合に出ることで成長し、うまくなる』という考えが広がってきているような気がします」
プレミアリーグには、選手全員が試合に出るための仕掛けがあります。それが「3ピリオド制」です。1ピリオドは15分、1試合は3ピリオドで行われます。GKとフィールドプレイヤー1名を除き、1人の選手は最大2ピリオドしか出場することができません。そのため、一部の上手な選手を固定して試合をすることができないのです。
■全員出場が練習へのモチベーションアップとチームの結束につながる
プレミアリーグ神奈川U-11の責任者・末本氏は「(自分は)だいたい1ピリオド目はスタメン。2ピリオド目はセカンドチーム、あるいは1ピリオドのスタメン半分、セカンドチーム半分。3ピリオド目は、その日のプレーで良かった子を出すチームが多いです」と話し、こう続けます。
「このレギュレーションで1年間やっていくと、2ピリオド目に出ていたセカンドチームの子が成長して、1ピリオド目でスタメンとして出ることもあります。顔ぶれは結構変わってくるので、1年間ずっと同じにはならないですね」
指導者としても、レギュラークラスの選手だけを熱心に指導するのではなく、まんべんなく指導をすることの重要性に、あらためて目を向ける機会にもなるようです。
「全員が試合に出るので、選手も練習に対するモチベーションが上がりますし、コーチの立場としても、普段以上に全員に目を向けるようになります。指導者が選手を、無意識のうちに1軍、2軍と区切るケースもあるのですが、それがなくなる意味もあると思います」
選手の立場からすると、週末の試合に出場することが約束されているので、トレーニングにも熱が入ります。その結果、チーム全体の意識が高まり、強度がアップする側面もあるようです。
「プレミアリーグは全員出場なので、レギュラークラスの選手たちも、チームメイトに対して『頼むぞ!』『任せるぞ!』という気持ちが湧いてきます。それがチームとしての結束にもつながると感じています」
■チームの競争力が高まり、トレーニングの質が上がる
末本氏は様々な側面から、プレミアリーグU-11の効果を感じているようです。
「プレミアリーグは、選手全員が強度の高い真剣勝負を経験できる場です。誰もが試合に出る環境があり、そこに向けてトレーニングをすることで、練習の質も上がります。そのような意識で1年間を過ごすことで、成長率にも変化が生まれると思います」
上手な子、レギュラークラスを固定して試合に出し続けると、その子達はレベルアップしますが、それ以外の子は成長のチャンスがないまま。実力差は開く一方です。
「チーム内での競争がなくなり、結果としてトレーニングの質も上がらなくなりますよね。プレミアリーグをきっかけに、少年サッカーの指導者の考えが変わっていくといいなと思います。神奈川県で70チームが参加してくれていますが、理念に共感してくれている方が、年々増えていると感じます」
■指導者たちもチームの底上げにつながると実感
全員出場について、参加チームのコーチにも話をうかがいました。横浜市春季少年サッカー大会で優勝し、プレミアリーグU-11にも参加するJFC FUTUROのコーチングスタッフは、次のように語ります。
「選手全員が試合に出られるのはメリットだと思います。公式戦の経験ができないまま、最終学年に行くのではなく、5年生の段階で緊張感のある試合を経験できるのはいいこと。普段、なかなか出場のチャンスが回って来ない選手も試合に出られるので、モチベーションは上がりますよね」」(石井延佳コーチ)
「プレミアリーグは全員出場なので、選手同士のいろいろな組み合わせにトライできますし、この選手はこのポジションでもできるんだといった、意外な発見があります。指導者としては試合で勝つことを意識しながら、チーム全体の底上げもしなければいけません。そのいい機会になっています」(吉見正コーチ)
■選手は試合に出ないと成長しない
プレミアリーグU-11神奈川の責任者、末本氏は言います。
「子どもたちは日頃から、理不尽な親や指導者に『競争だ』とか『試合に出たければ、もっとうまくなれ』とか言われているわけです。でも試合に出ないと成長しないですし、トレーニングに対するモチベーションも上がらないと思います。僕は大人になってもサッカーをしていますが、試合会場に行って10分しか出られなかったら、何のためにやってるんだろうと思います。それは当たり前の感情だと思いますが、子どもたちはその状況に慣れきっているわけです」
試合に出てうまくプレーできなかったら、もっとこの部分を練習しようと、目標が明確になります。そのようにして課題をみつけ、レベルアップに取り組むのが、成長に必要な道筋です。そのきっかけを提供するのも、指導者の大切な役割なのかもしれません。
「プレミアリーグのように、レギュレーションで全員出場と決まっていると、保護者を始めとする周囲の理解も得られやすいです。育成年代、特にジュニア年代はサッカーが好きな子をどれだけ増やして、中学年代に送り込むかだと思います。その面からも、全員出場の意義を感じてくれる人が増えてくれたらと思っています」
次回の記事では、「カテゴリー分けされたリーグ戦の意義」について、プレミアリーグU-11の理念を紹介します。
末本亮太(すえもと・りょうた)
JFA B級ライセンス、フットサルC級ライセンス、JFA公認キッズリーダー。
大豆戸FC代表理事、U12監督。ジュニアユース、シニアチームの立ち上げ、クラブのサッカー以外の多角的な活動構築にも尽力。「ちょっと自慢できる、サッカーを通じて出会うはずのない感動、人、未来を創造し、非日常を提供すること」をミッションに掲げ、自チームの活動の他に「プレミアリーグU11神奈川」の運営や地域でサッカー広場を開催するなど、育成年代の活動に力を注ぐ。
また、小学生を連れての被災地訪問などNPO団体として、サッカーだけにとどまらない活動も行っており、将来を担う子どもたちの育成にも力を注いでいる。